体験にもとづくフィクション＆ノンフィクション Fiction/Non-Fiction based on experience JPN/ENG

第一話　びっくりしたこと

今は、千葉県柏市に移転して20年余りになる科学警察研究所（科警研）。私がアルバイトをしていたときは、千鳥ヶ淵に近い東京都千代田区三番町にあった。現在、三番町の科警研の跡地は高級賃貸マンションになっているようだ。

１９７０年に大学を卒業して２、３年たったころだった。大学の友人が、科警研で週３回のアルバイトをしていたが、常勤の仕事をしようと考えなおしたそうで、彼女のアルバイトの代わりを頼まれた。聞いたことのない「科学警察研究所」は、私が思い浮かべた民間シンクタンクではなく、警察庁の研究部門で通称は「科警研」という。アシスタントとして、言われた事務をすればよいということだった。私は当時、新卒で採用された銀行を6か月で落ちこぼれ、大学に戻り一般教育学部で副手をしながらアメリカ研究室で研究生をしていた。しかし当面の目標は定まらず、大学院進学の準備も身が入らず、体は忙しく動かしていたが、精神的には日々を持て余していた。学内の図書館で第一資料を読むと言って、当時は贅沢で豊富な翻訳のおかげで、ドイツやフランス、ロシアの作家や芸術家の和訳された小説、日記や書簡などを読んでいた。７０年前後の大学改革とベトナム戦争反対運動は、私たちのゼミでも継続中だった。何事もなかったかのように社会に適応するのにそれぞれが悩んだと言えるし、それを口実にただ怠惰な生活に浸っていたとも言える。

「科警研」がどのようなところで、自分ができる仕事か、よく調べることもなく、いつもどおり、頼まれたのだからやってみようかという気持ちで引き受けた。それから４年間、大学の手伝いを減らして、科警研の仕事を週３日、規則正しく務めた。当然ながら研究する当事者ではなかったが、理系の専門家たちの研究生活に密着し、今振り返っても一番楽しい職場だった。

科警研の「音声研究室」が、私が通う大部屋だった。機材が占めているスペースがあり、全体の広さやかたちは、室内を歩き回る用事はなかったので、結局最後までわからずじまいだった。音声とは何なのか？ 鈴木副室長が、「僕たちは言語と声紋というのを研究・調査しているのですよ」。「ここは、警察庁のなかにあって、全国の警察から未解決の音声関係の調査を依頼されるのです」。「音声」は、犯罪捜査で世間でも注目を浴び始めていた時代だった。研究室は室長以下５名ほどで、期限までに研究や調査結果を上に報告するらしい。室長以下職員は、静かに集中して研究に取り組み、無駄話というのが皆無だった。鈴木副室長はオーストラリアなどで留学や研究経験があり国際的な影響力も持っておられた。研究室は海外からの研究者来訪、欧米豪の研究機関やStars & Stripes (在日米陸軍の星条旗新聞)との交流活動も定期的にあり、すこぶる多忙なはずだったが、職員はみんな若く、タフで、ゆとりを持って終えてしまうのだった。私は研究以外の対外的な庶務の窓口であり、あとは鈴木さんから指示された通り書類を区分し、職員に手渡しや、それぞれのBoxに入れる。そのほかに就業時間内に終わる程度の事務作業があった。

アルバイト開始から２か月ほど経った頃、突然、太い迫力ある怒号が部屋中に鳴り響いた。大地震が起こったかのような衝撃だった。男が、誰かを脅している声だ。心臓がびっくりして高鳴ったが、私は声も出ず、平静を装いながらも、研究室に届いた葉書や手紙の仕分けの手をとめた。30分ほどしてから、鈴木さんがついたてで仕切られている個室から出てきて、「初めてでしたね。びっくりしたでしょう？脅迫電話の声紋の仕事があるので。前もって言った方がよかったですね」。それだけ言い残して、ついたての向こう側に消えた。

全国の誘拐や殺人事件の証拠に関わる仕事があるのだ、と勝手に察すると、落ちつきかけていた心臓のドキドキが収まらなくなった。

２〜３日後、鈴木さんから内線電話があって、午後にもう一度声紋の仕事で録音が流れるという。

前回よりもボリュウームを落として、聞こえてきた声は、脅迫電話ではなく、推察するには全共闘や、別のセクトらしい学生運動の闘士たちのアジ演説だった。大学改革で闘う学生運動には心情的に共感していた私は、思わず耳を傾けたが、誰が演説しているか、人物を特定することが目的であるようで、細切れに編集されていた。演説をしているだけで調査対象になるのだろうか？この人たちはきっとセクト間の暴力や、凶悪な事件に巻き込まれたに違いない。大学闘争は、様々な扇動や暴走で数々の犯罪を犯かす悲劇もあった。私の想像と心情は果てしなく拡がり、複雑な思いにふさがれた。このときが、ここは警察だと思い知った数少ない場面だった。家に帰っても私は科警研で今日聞いたことは絶対に口外しないと、自分に念を押し、当たり前とはいえ、今日まで半世紀は、守ったのだ。私が何をしても社会的には何ら意味はなくても、これに限らず科警研では実社会について自分で考え、学ぶとこが多かった。

真相はわからないが、科警研全体で、いくつかの研究・調査の民営化を進めてきたのだろうか。私が科警研で聞いたような声紋のための録音は、すでに児童誘拐犯の声など声紋研究で特定できると、テレビでさかんに取り上げられていた、と後に知った。科警研では名が知られていた、元・音声の室長も、会社を立ち上げて、TVや新聞で事件に関わる声紋の解説をされていた。声紋で、犯人が特定されるという画期的な先端技術で、犯罪抑止のために積極的に公開していたのかもしれない。

こうして、この一件は誰とも話題にすることもなく、成り行きを見守っていただけで、私は心穏やかに、この快適な職場に居残ることができたのだった。

（了）

第二話　チャレンジしたこと   ～ クロールの研究

毎年夏休みは、叔母に連れられて山口県室積の母と叔母の実家で過ごした。叔母は当時まだ2４，５歳だったはずで、姉の子供である私たち3人の幼稚園児や小学生を連れての大旅行だ。山陽本線の東京駅から山口県の徳山まで、車内は混んで通路も簡単には歩けないなか、毎回、大変な思いをして子供たちを運ぶ役目を果たした。宅配便がない頃の移動は、乗客は荷物を持てるだけ運ぶため、車中の網棚からあふれて通路にも置かざるをえない。手荷物では運べないものは、乗車券を購入するときに貨物として別送する「チッキ」という手段があった。指定された最寄り駅に行って、旅行の行きと帰りに、自分で送ったり受け取ることができる。「汐留駅に行かなきゃいけない」と母と叔母はよく言っていた。当時は便利だったかもしれないが、「チッキ」は汐留駅と自宅の間は、車で運ぶといっても自家用車は一般家庭には普及しておらず、タクシーはもっとぜいたくだった。バスや電車で荷物をなんとかして運んでいたのだろう。大人の大変さは頭にない私は、叔父の家で、東京ではできない遊びや付き合いを朝から晩までして過ごした。家の裏は白い砂浜が拡がり、遠浅の瀬戸内の海がどこまでも続く。従弟たちや近所の幼馴染みと日に一度は、家から徒歩5分のこの海で泳ぐ。泳ぎは、浮き輪のまま頭や手足をどう動かすか、私たち姉弟だけでなく、近所のまだ泳げない小さな子供たちもいつの間にか一緒になり、親戚、近所のお兄さんやお姉さん、知らない人たちが様子を見ながら教えてくれる。まもなく私は平泳ぎを、弟たちはクロールを身に着け、浜辺に集まったコーチたちが、口々に「そう、それでいいよ。泳げるようになったね！」「これから沢山泳ぐと、自然とうまくなるよ」と喜んでくれたので、泳げることに大満足してひと夏終わった。

社会人になって、仕事の帰りにいろいろなプールで泳いだ。転勤先でも出張先でも泳ぐうちに、自分はクロールに自信がないことが重荷になった。水泳教室は堅苦しくて楽しい雰囲気には見えないのだが、教えてもらうにはしかたない。「平泳ぎと背泳は自然と楽に泳げるようになったのに、クロールがうまくいかない」と、悩みを伝える。そこには本物のコーチがいて、私が水泳選手になりたいか、タイムを縮めたいと伝わったかのように、私にはレベルが高すぎるクラスだった。私の泳ぎ具合を見たはずであるが、泳ぎの進化は理論とともに教えるのだ。肩の回し方、水に手を入れる角度は以前より、お腹の中心部に引き付けること、手の抜き方とその時のひじの高さ、足の蹴り方など、日ごろ無意識にやっていることにも合理性があると、丁寧に説明と実践をしてくれた。ポイントは頭には張り付いた、と思った。

友達とプールに行くことはまれだったが、週末のある日、信濃町から徒歩数分で、料金も安かった神宮プールに行こうということになった。やや混み合っていたが、外気を吸って、空と雲と木立を一望できるのだから、70年代でもすでに人気があった。来場者の３分の一ぐらいは、ほとんどプールに入らずプールサイドで眺めている。小学校のプールと同じく縦２５メートル、横幅は9メートルぐらいの馴染みのサイズだ。しばらくしてから、クロールで泳ぎ始めた。前回の水泳教室のコーチの言葉を思い出しながらスピードを加えて、スイスイと進んでいるはずだった。私がプールの壁にタッチすると、人が急に近づいて来て、「大丈夫ですか？」と聞いた。それは明らかに、ネガティブな事象にかける言葉だ。「私の泳ぎはどうかしていましたか？」その人は「沈んで行くので大丈夫かと思ったので」と答えた。やっぱりそうか！きょうは特に、上下に浮き沈みするような気がしたなぁー、と内心思った。探求心旺盛だった当時の私も、さすがにその場で泳ぎ方を聞く気力もなかった。それに見ず知らずのこの人に聞くのもヘンだ。近づいて声をかけてきたのは、プールの縁を歩いて、プールのなかの様子を見張っている監視員のアシスタントだったのだ。飛び込んで来て救出される一歩手前の私のクロール。あまりのショックに体が粉々に砕かれてしまいそうだった。

ところで、一緒に来た私の友達は偶然私のその場面を見ていなかった。気持ちのよいプールで一人泳ぎ回っていたらしい。「私はクロールができないの。泳ぎ方がわからない」私が沈んだ声で言うと、その人は「自分のクロールはかっこよくないけれど、普通の人の泳ぎより速く泳げる」と誇らしげに応えた。自分のスタイルが一番泳ぎやすいと楽しんでいる人だ。

沢山泳げば自然とうまくなるはずだったのに、振り返れば、私のクロールは、泳ぐより考えている時間が長い。歩行でも緊張すると手と足が揃って歩いてしまうように、私は水泳教室で習った泳ぎ方を思い出そうと、水中で頭だけを使った結果、手足が硬直してしまったのか。しかしこのうまく泳げない理由は我ながら気に入って、理由がわかった以上、このあたりで、チャレンジの矛を収めてもいいかなと、それ以来、水泳も、「クロールができない研究」も、長くお休みしている。

（了）

第三話　故郷について　～　縁者集落

「おのぜ」という地名を聞きながら育った。漢字では、「魚」に「浅瀬や瀬戸内」の瀬を書き「魚瀬」=「おのぜ」人によっては「うのぜ」と発音する。出雲弁では、「お」と「う」の中間を発音するらしい。親戚や知人がかなりの頻度で上京し、家に魚瀬出身の父に会いに来られて、一緒にお食事をしたり泊まったり、また出張の仕事帰りに寄って、大いに話がはずんだ。小さな家でもなんとかやりくりして、故郷から人が訪ねて来られると、父が上機嫌になり、母は叔母が家事を手伝ってくれることもあって、父と一緒に話を楽しんでいた。

魚瀬や松江からの来客のお土産はたいてい岩海苔か、松江の大きな、とても重たいお菓子だった。厚い束のような岩海苔は、 東京の海苔とは見栄えも味も違うので、私はいつもがっかりした。岩海苔は、冷たい海で、こびり付いた岩から手で採ってから加工することを、あとで知って申し訳ない気持ちになった。松江のお菓子は、八雲、若草、山川などで、後々、どれもお抹茶の名高いお菓子だとわかったが、当時小学生だった私にはただただ甘すぎるお菓子で、好物ではなかった。魚瀬というところは、父の故郷であっても私には何か遠い世界だった。

高校生になって、お墓参りについて行き、はじめて魚瀬に行った。お墓には、お線香やお花、必要な諸々を持って、家から30分ぐらい崖っぷちを歩いた。道中は一面の菜の花が拡がり、群青色の海と菜の花だけで視界が一杯になる、想像したこともない絶景が拡がっていた。そこから住宅地に目を移すと、どれも岩や崖の上に建てられて、平地や農耕地はほぼ見当たらず、各住宅の眼下には海がゆったりと横たわっている。上京して陳情帰りの魚瀬の親戚が、魚瀬がようやく「地滑り地区」に指定されたので、上の安全なところに家を建て換えられると喜んでいたのはこのことだ！と納得した。

魚瀬は、松江市に編入される前は、八束郡大野村にあった500人ほどの海沿いの崖に張り付いたような集落で、全世帯が漁業で生計をたてていたそうだ。苗字は清水、村松、山野の３つしかないので、苗字ではなく名前で呼び合い、紛らわしい人は屋号をつけて名前を言えばわかる、どこかで繋がる親戚縁者の地区だった。韓国まで200~300kmぐらいの距離で、日本と韓国の漁船が行き交う漁場があったようだ。父の母、つまり私の祖母の家は、代々の網元だった。祖父はその家に婿入りをし、家業の網元を立派に継いだ。父も漁師になるのが順当だったが、叔母たちの話によると父は勉強が好きで、松江中学で優秀だったので、学校の先生が将来は東京に出して勉強させるように、両親に頼んでくださったそうだ。家業の漁を手伝わせないで、高等教育を受けさせるためにお金を使うことは、父の両親にとっては、内心は嬉しくても周囲には肩身の狭い思いをしていたらしい。特に父の姉3人がみんな末っ子の父をかわいがって会うたびにおこずかいをくれて、励ましてくれたそうだ。魚瀬には豊かな海があり、そこを離れなければみんなよい暮らしができた時代だったのだろう。私が行き来した７０年代でも魚瀬の人たちは、普段は質素な身なりで、つましい暮らしぶりだったが、贈答や振る舞うときは、とても派手で贅沢なところがあった。私には都会よりずっと豊かな生活に見えた。私が魚瀬に行く度に、父の姉たち（私の伯母たち）は、高校や大学に行っていたころの私に、「よく帰ってきたね」と言っては、それぞれの伯母がおこずかいをくれた。それは当時学生だった私には高額だったので、びっくりしてそして嬉しかった。父もこうしておこずかいを頂戴していたのだと、頭をよぎった。

親戚の何軒かはそれぞれ出漁の母船を所有し、お互いが船の保証人としても濃い繋がりだった。

魚瀬の人たちのなかには、その後、新しく建てた家と、これまで住んでいた「下の家」の２つを持つことになった世帯がかなり出てきた。そこで私は、空き家を使うことを勧められて、お盆休みなど、豊海丸の所有者のいとこの村松さんの親戚、山野さんの「下の家」に滞在させてもらって、いとこやその子供たちとはとりわけ親しくなった。話を聞いていただけでは遠い別世界だった現在の松江市魚瀬町は、滞在や往来を繰り返すうちに人一倍愛着を感じ始めた。

いとこやその子供たちは、海が職場で嵐の日を除けば出漁する。４月のワカメを皮切りにアゴ（トビウオ）、イワシ、隠岐の島のイカなど１０月まで近海や、さらに韓国付近の境界線まで出漁し、毎朝の漁獲後は、女性や年寄りも全員で行商や水産加工で働く。魚瀬の人たちは冬場の１１月から３月までは漁を休んで、男女とも体を休めて子供の世話やちょっとした畑仕事や商売、本家に毎晩集まる酒盛りなどで過ごしているようだった。贅沢をしないので暮らせると言っていた。贅沢はしないと言っても、魚はもちろん、サザエやウニなど、「ちょっと待っていて！」とすぐ下の海にもぐってとってくるので、私からみれば食べ物はすこぶる贅沢だった。また、漁をしないで陸にいるときは、普段でも身ぎれいで漁師の人たちは、おしゃれだという印象を持った。私が大学生のころは、豊海丸の船長のいとこの村松力さんと、その弟の漁労長の功さんには、船と、人の生活と命を預かる責任感からか、飾り気のない誠実な人柄で、カリスマ性があった。優しさや思慮深さのある素敵な人たちだとみんなが尊敬していた。ちなみに女性は運搬の小舟には乗ってもよいが、漁をする船には乗ることは禁止されていた。2000年以降は、釣りが趣味の人たちが漁船で釣りをしたいという希望が多くなり、観光客のためと割り切って、男女問わず乗せるようになったと聞く。

一方、魚瀬でも若い人のなかには一年中、漁の仕事を求める人たちはいて、魚瀬に県外からも来ている漁師と一緒に、魚瀬の漁が終わる秋には、漁が続く漁港に移っていった。浜田は島根県でも出雲とは文化圏の異なる石見地方、境港や米子は鳥取県、下関が山口県など、陸上の区分とは違って、漁では全部繋がっている日常のようだった。

全盛期の漁業の時代は過ぎて、2000年頃から、魚瀬の漁業は急速に衰退した。廃業する船は船団を組んで、港を周回するお別れの儀式をしたそうだ。その後、松江市の旧市内の人たちと互角に活躍し、様々な進路を得て、指導的な立場に就くことも当たり前になった。

遠かった魚瀬は今では、私にとっては故郷と言えば魚瀬が浮かぶ。当たり前のように、「もう帰るの？」「あんたはここに帰ってきたらいいわね。」と言ってくれた地縁血縁の人たちと一緒に過ごした日々によって、故郷を見つけたということだろうか。

（了）

第四話　怖かった体験

海外に観光で出かけるゆとりはなく、仕事で海外出張もなかった1978年に一人で南米、パラグァイのアスンシオンから更にバスで6時間のところにある「旧イグアス日系人移住地」を訪問できる口実ができた。母の実家は山口県光市にあり、光市や近隣市町村からペルーやハワイに移住した人たちが、数軒はあったそうだ。祖母はハワイから帰国した人から聞いた経験談を、まだ6歳か7歳だった私に話してくれた。日本の戦後10年もたっていないころだから、開戦とともに移住を断念し日本に帰国した人たちの話かもしれない。それは大変だったとかつらいかったという話ではなく、食べ物や服装の話で、帰国してからもニワトリを食べる変わった習慣になったという話を、祖母がこわごわと声をひそめて話す理由は、当時は野菜と魚しかたべない瀬戸内の人にとってはちょっと恐ろしい話だったからに違いない。洋服も、田舎の人の服装とは違って、「普段着でもカラフルで日本では手に入らない上等なものだ」。山口県から海外に移住する人たちの話は母にも影響したと見えて、母は一度も行く機会はなかったが、ペルーに興味を持ち続けていた。毎晩就寝時には長時間読書をしていた母は、よくインカ帝国に関する本を読んでいた。そしてそのうちの何冊かは、日本最古の和歌集である万葉集や中国の古典とともに、母の生涯を通しての愛読書だった。

私は好奇心旺盛で南米の日本人の移住地区だった場所を訪ねるのは、自分としては唐突ではなく、訪問できる機会は、逃すことができなかった。

現在では目的地まで２日ぐらいで到着できるらしいが、その当時は米国のダラスとブラジルのリオデジャネイロを経由するのが最短で、乗り継ぎを含めて現在の３倍の時間がかかった。

職場は、４月も忙しかったが、平日の７日間と休日のお休みをもらって往復することにした。旅費は貨物船に乗れる旅客の枠があったが、時間的には無理だったためあきらめて、往復30万円かかる空路にした。

私にとって５回目の海外渡航で、一人では初めてだった。間違いなく搭乗便を乗り継げば、海外旅行は難しい話ではない。アスンシオンからイグアス行きの高速バスに６時間乗って終点が目的地で、知人たちが待っていてくれる。

海外の空港で、あるいは成田や羽田で、旅券審査や保安検査場を通過するときは少なからず緊張する。最初の経由地ダラスでは乗り継ぎの一環なので、旅券や手荷物のチェックはなく、搭乗券だけで別の航空機に乗り継いだ。2番目の経由地のリオデジャネイロ国際空港では乗り換え手続きの旅券審査と手荷物審査があり、別の搭乗機に乗り換える。

その旅券審査を終えて手荷物の受け取りに向かう途中、制服を着た女性が私を呼び止め、付いてきてください、と言う。空港内だから何かの担当者だろうと思いながら従って行くと細長い廊下を通り抜けて、薄暗く狭い、机と椅子だけしか置いていない、取調室のようなところに通された。「ここで待っていてください」と言い残して出て行った。

一人で座っている間に頭に飛来したことは、パラグァイはのどかな農業国で安全だが、ブラジルは急速な工業化で、貧富の格差が開き治安が悪い、という旅行ガイドブックの一節で、ネガティブなブラジル情報で頭が一杯になった。ここで私がどこかに連行されても、誰にもわからないで行方不明者になるだけだろう。10分ぐらいだったかもしれないが待つ時間が長かった。

人が変わって男性がやってきて、パラグァイに行く目的は何かを聞かれ、日系人移住地に行く用件の概略を伝えた。ここで時間をとって、次の搭乗に間に合わなくなるのではないかと気が気ではない。その男性は黙ったまま、外で待つ制服の女性に合図をすると、それはどうやら私はこの部屋からは放免されることらしい。制服の女性の「付いておいで」のジェスチャーで部屋の外に出て、来た廊下を戻った出口で、私にOK、と言った。本当は「なんで私が呼び止められて、特別に質問されてからOKなのか？」と理由を知りたかったのだが、それで長引くと乗り換えに間に合わなくなり、またどこかに閉じ込められそうで怖いので、速足で手荷物をとって搭乗口に向かった。

「なぜ？」という理由が私なりに腑に落ちたのは、それから約30年たってからだった。リーマンショックの際に、雇用が打ち切りになったブラジル日系人に対して、日本政府から希望する者に、一律約30万円のブラジルへの帰国支度金を支給された時期があった。ブラジルに一時帰国した日系人の一人、玉置カルロスさんに数年後東京で再会し、雑談のなかで私が以前話をしたこの話題になった。私が、結局なぜかわからなかったと言うと、カルロスさんは、「自分もその理由を考えてみたのだけれど、パスポートの前の渡航歴が、当時は問題だったと思う。」と言った。「ブラジル政府は、1970年代から、前政権の社会主義のリベラル政権から軍事政権に移行中で、旧社会主義国への渡航歴のある者は厳重にチェックされたと考えられるから」。

なるほど、1970年、モスクワ大学で開催された国際歴史学学会に団体ツアーで参加したこと、ベトナム戦争終結直前に、北ベトナムの友軍として戦闘中のラオスに、TBSテレビの番組収録で滞在したこと、あとはUSAとメキシコだったが、渡航履歴の4か国中、２か国は当時のブラジルにとっては危険な国だったと考えられる。

最近は、国際社会の常識が日本国内でも普及してきた。特に一般民間人が一人で行動するときは、旅券の履歴に気を付けることが常識になりつつある。旅券の渡航履歴から言いがかりや誤解によって痛ましい事件や殺人まで起こっている。

リオの空港の係官は、私と面談しただけで判断できたプロフェッショナルとして、豊かな知識と感性を備えていたと、恐怖だった体験が、今では幸運な体験と思い起こせるようになった。

（了）

第五話　お酒について

快速電車の終電に間に合うように、JR東京駅の改札口に向かうことはなんどもあった。この日遅くなったのは、残業後、隣のビルのビアガーディンに行くグループに参入したからだ、と職場の習慣のせいにする。この晩、私は東京駅から総武快速で千葉方面に向かうところを、同じプラットホームに停車していた横須賀や逗子に向かう列車に飛び乗ってしまった。うとうととしているうちに、品川を過ぎて、見るとなんと横浜駅に止まっている。慌てて降りるが引き返す列車は、各駅停車の御茶ノ水までで終わってしまい、駅のホームも閑散としている。あちこち乗り継いでも、無事帰宅できるとは限らないので、タクシーで散財するしかない。
さすが横浜は、平日の深夜でもタクシー乗り場は活気があり、15分ほど待つと乗れた。「京葉道路の花輪インターか湾岸道路の若松町ですね。深夜は1時間もかかりませんよ」と言われてややほっとする。「運転手さん、そんなにスピード出さなくても、私は特別に急いで帰りたいわけではないです！」続けて、「運転手さんは夜の運転が専門なのですか？」と何気なく聞いた。だいぶ間があってから、「私はできるだけ24時間運転するようにしています」。意味不明だったが運転中に話しかけるのはやめよう、と思ったそのとき、「私は実は、運転している時間以外は、お酒を飲みたくなってどうしてもがまんできない。寝ようとしてもその前にお酒を飲まないと眠むれない。運転だけがお酒を飲みたい誘惑に勝てる時間なんです」。
運転しなければいけないから、お酒が飲めない。お酒を飲みたいから、運転はできない。この領域を超えた人がお酒の誘惑と闘っているのだ。私は20代のころ、著名な作家で精神科医だった、なだいなだ氏が、「アルコール依存が強まると、お酒の飲み方が新幹線と同じで、東京から名古屋まで止まらない。各駅停車はないのだ」と書いていたのを久し振りに思い出した。
「いつ寝るのですか？」
「どうしても寝なくてはいられないときだけです。昨日も寝ていませんが、慣れれば1日や2日は寝なくても運転に支障はないです」。
眠気に勝てなくなり運転できないときだけ、コロリと眠りにつけるということか？ 運転手としてのプロ意識で、心身をコントロールできるのだろうか？ 自分が深夜遠回りして帰宅する情けない境遇だったにもかかわらず、運転手さんの話はちょっと怖い話ではあったが切実すぎて、私は我を忘れて、ただ彼の無事を願うしかなかった。

お酒について好きな話は、2004年から8年間中日ドラゴンズを率いた落合博満監督が2012年1月、Baseball psychology「8年間の真実」でインタビューされたときのことだ。監督就任最初の開幕に、川崎憲次郎投手を指名した理由に関連したその顛末が、私には驚きだった。オールスターのファン投票で選ばれながらも、肩の故障で3年間1度も一軍で投げていなかった川崎投手を選んだのは、お正月に、お酒を飲みながら考え付いたというのだ。念を押すアナウンサーに「酒を飲んでいなければ考え付かないアイディアだった。エース級が何人かいるので、酒を飲んでいなければ、わざわざ普段は頭にない投手の名前が、浮かんだり引っぱり出せるはずがない」と繰り返した。
お酒ゆえの妙案が実現した、今日も語り継がれる「成功談」だった。お酒あっての創作や文化は、どこの世界でも君臨しているのだと、心強く安堵したものだ。

１９８０から９０年代をピークに、以降職場の人たちと飲みに出かける習慣は減少傾向が始まり、今では私の周辺の若い世代はお酒をほとんど飲まない人も増えている。少なくとも職場で半ば飲むことを強いられることがなければ、職場のお付き合いでお酒を飲むことはなくなるだろう。仕事の一環のようだったお酒との付き合いの時代は過ぎ去って、それは本当によかった。私はお酒とは生涯ほどほどに楽しめる関わりを持ちたいと思いながらも、だんだん疎遠になってしまった。お酒を囲む宝物が少しずつ失われていくのは残念であるが、健康志向が強まる世のなかでは、自分の生活のなかでほどよく飲める人、あるいは全く飲まない人の時代が来る気配を感じ、大変歓迎すべきことだと嬉しく思う。

（了）

第六話　　感動したこと

私は、社会人になってからも北海道犬のアマチュア研究を始めたいと考えていた。家族で北海道に住んでいたから、実際に展覧会に家の犬を出陳して、犬仲間といつまでも話が尽きなかった。北海道犬を年代に沿って血統や系統別に写真を掲載し、解説した先人たちの素晴らしい記録と業績がある。大概、イヌのすぐれた研究は、大学や研究室からは出てこないと、かつて読んだのか、私のオリジナルの考えなのかわからない。犬が大好きな人たちは、犬を研究するよりも、犬と遊び、一緒に暮らしを楽しむ方がよいに決まっている。「犬は人の鏡」と言われるくらい、人の研究をするに等しい壮大なテーマだと思う。私が知る犬についての探求心にとりつかれた人たちは、”犬道楽“と呼ばれ、犬に時間も財産も費やし、その成果はただちに評価に現れないものの、少なくとも本人たちは、充足感や豊かな想い出に満たされたのではないだろうか？家族や周囲にとっては、とんでもない人たちだったかもしれないが。
日本犬の調査・研究は、1990年代に大学の研究室が予算を獲得して、遺伝子情報（DNA）の専門家が加わって、そのルーツや類似犬種などの分析や解明が行われてきた。北海道犬の調査・研究は、このような先端事例に対し、現状では明らかに出遅れて、停滞している。出遅れても研究成果を挽回できる先端技術を期待したいが、日本犬の各保存会は、自前で調査・研究する資金どころではない、財政状況のようだ。

日ごろの犬の”犬脈”で、夏休みをとって、1993年、AＪIＫＣ（仮名；オールジャパン・インターナショナル・ケネル・クラブ）のドッグショーに、事務局スタッフで参加した。開催地はデンマークのコペンハーゲンだった。AJIKCのように国内で最大級の畜犬団体は当時、家畜に分類される犬の生産者団体として分類されて、農林水産省の小動物係が所管していた。ちなみに、秋田犬、甲斐犬、紀州犬、柴犬、四国犬、北海道犬の六犬種の日本犬は、国の天然記念物であり、文化庁の所管であった。AJIKCは、FCI（国際畜犬連盟・本部はベルギーのブルッセル）のメンバーの一員である。FCIは、認定した犬種を世界市場に流通させる国際連合のような組織である。すなわち血統書付き犬種を認定し、血統書付き犬を市場に仲間入りさせる、世界的マーケット機構を運営していた。AJIKCが西洋犬も日本犬も、日本を代表する団体として、このFCIで、議決を要する会議や、ドッグショーの開催に参画する。その結果、犬を生産する商売（業者）と、家庭で犬を家族として扱う人たち（愛犬家）が混在する組織となってしまう。したがって、AJIKCを運営する苦労は、並大抵ではなかったようだ。AJIKCの理事長の口癖は、「クラブの犬の質は格段に向上したが、人間の質の方が追い付かない」というものだった。
コペンハーゲンでは審判団にAJIKCから国際審判の資格を持つ、日本人ジャッジ2名が参加していた。シーズーの部が終わった後、一人の女性が審判席に、その部の主審をした日本のAJIKC所属のジャッジを探しにきた。判定に不満や異論、あるいは相談があることはよくあることらしく、Tジャッジは、やや不安気に、それでも慣れた様子で席から立った。AJIKCの重鎮で、国内外で審判の経験も豊富だった。

「私のこの子は、どうだったのか、説明がほとんどなかった。もっと聞きたい」ということらしい。私の仕事としては、この婦人の言っていることをKジャッジに伝えた。
「一番最後についたアクアちゃんですね。歩行がだいぶ揺れて普通に歩けないでしょう。足を怪我しているのかな？」とK氏が言うと、その婦人は「それはそうですよ。2年前に車と接触して」、でも幸い命は助かったのだというようににっこりして、「後足が元通りに直りません。歩き方は以前のようにはいきません、でもこの子について専門家のコメントやアドバイスがほしくて、ドッグショーに連れてきたのです。コート（毛並み）や顔立ちはとてもきれいだと思っているのですよ」。
一瞬私も周囲も沈黙してしまった。誰よりも、K審判が日頃から会員に、将来のドッグショーのあり方として描いていたそのものだった。１９８０年代から９０年代のAJIKCは、国内のドッグショー出陳頭数も最盛期で、ドッグショーで勝った、負けた、入賞した、失格だったなど、判定順位がドッグショーの関心事だった。犬の飼い主が参考になる丁寧なコメントは省かれ、勝った犬の子犬は高値になるし、親犬も繁殖で引っ張りだこになる。日本国内では、足を引いて歩く犬をドッグショーに参加させる人はいないだろうと推測した。すでに３０年近く前に出会った、シーズーを抱えた婦人が、実に自然に、日頃自慢している自分の犬の特徴を専門家からも、肯定してほめてもらえるのか、もっと気を付けることは？と言いたげな質問はその後、深く私の胸にも刻まれた。

（了）

第七話　　アジアゾウ　～　スリランカ

日本政府が1000万円の資金を提供するので、実行可能で必要なプロジェクトがあれば、企画書を受け付けるというODA事業への募集があった。1990年代から定期的に行われて、現在は「草の根プロジェクト」という大学や自治体、NGOが参加しやすい、民間色の強い事業に統合されたようだ。その第１回目か、２回目に間に合えばと考えて、知り合いの高槻先生に、朗報とばかりに連絡した。
生態系学者で、野生動物と人間社会の共存をテーマに研究をされている高槻先生は、スリランカのキャンディで、野生ゾウと人間集落との現地調査を終えられたばかりだった。アジアの野生ゾウの急激な減少と、人間との共存については、当事者国や地域にとっても重要なテーマのはずだ。
高槻先生と研究室の学生が滞在したスリランカのキャンディには、時期は私の方が数年前だったが、夏休みをとって、FCI（国際畜犬連盟）のドッグショーの手伝いとボランティアで行ったことがある。（ドックショーと言っても警察犬のシェパードだけの大会だった）。わずか８日間の滞在だったが、野生ゾウが人間の日常生活の間近に出現することを知り、衝撃を受けた。スリランカでは、住民は、森林のゾウの群れが村に近づかないよう注意深く暮らし、近づけば追い払うことをしてきたが、限界に達していること。少なくともキャンディ近辺のスリランカの人々は、決してゾウを殺さないが、密猟が横行し、殺された親ゾウのそばに残された子ゾウが年々増加して、保護されてきたことなどだった。
キャンディから３０キロぐらいのところに、今は観光スポットでも有名になったピンナワラのゾウの孤児院がある。
１９９４年は大統領選挙の運動の真最中で治安がよくないということで、ドッグショーに警察犬を出陳したキャンディの警察の方々が私たちに同行してくださった。
「今、この孤児院の子ゾウの里親制度を始める予定です」。と警察署長さんが説明した。
「開発が進み、野生動物のいる森林が減少し、森へ返せる子ゾウは少なくなる一方です。それにケガをして人から治療を受け、なついてしまったゾウは、放しても野生にもどらないで村に近づきます。そこでキャンディの住民と何度も集会を重ねて、ゾウとの関係をこれ以上悪化させない対策を考えてきました。野生に戻せないゾウたちは、芸を覚えさせるため、海外からも仕送りをしてもらうことを考えています」。次はゾウの孤児院の部長さんが続けて、「毎月、飼育係の給料を含めて１０万円を子ゾウ一頭に飼育料として仕送りしてもらうと、１０年後にはゾウは一人前になって、芸で収入を得ることができるようになります」。さらに「芸と言っても、スリランカはゾウが出動するお祭りやイベントが多く、街中を歩いたり止まったり、人を乗せたり降ろしたりするような出番です」と付け加えた。
警察署長は最後に笑顔で、「ゾウは長生きしますから、今度はゾウが稼いで貴方に２０年から３０年間は仕送りできるようになるというわけです。ぜひ成功させたいと、みんな一所懸命なのです」、と結ぶと、これは私たちの最高のお土産話になり、いつか叶えたい夢としてし忘れたことはなかった。

ところで、冒頭のプロジェクトの応募の準備は高槻先生と研究室の２人のスリランカ人留学生を中心に、趣旨や選考基準、テーマの優先順位など数人の関係者と打合せをし、「アジアゾウの保全」あるいは「人とアジアゾウの共存」の範囲で提案できる見通しがついた。あとは、そのような要望が相手国からあるかを調べてもらうことになった。どの国が実現しやすいかについて高槻先生は「ゾウに国境はないので必要と言う国であればどこでもよいです」ということで、私たちは要請する国があることをかなり楽観的に考えていたが、結果から言えば１年たっても要請して来る相手国は見つからなかった。
情報交換など打合せに関わった全員が、企画書の意義を認めながらも、ODAの対象先が見つからなかったのでしかたがない、とようやく出会った人と野生動物との共存プロジェクトに、目途が立たなくなり意気消沈した。ただ高槻先生は満足気だった。
「皆さんが忙しいなかで、日常からほど遠い、野生ゾウを保全するために、森の生態系を破壊しない知識や経験に関心を持ってくださったこと、失敗事例などから学びながら、開発を修正するという地道な議論に何時間も付き合ってくださったことに、人間と地球の生態系全体を保全しようと行動しようという社会人の職場があることに感激しました」とお礼を言われた。

数年後、私は海外出張先の、そこは将来、人間とゾウとの共存が課題になると考えられる国の援助責任者に、アジアゾウとの共存や、野生動物が棲息する森林の保全をテーマとするプロジェクトは、なぜ進まないのかと聞いてみた。
「援助を受ける側からすると、野生動物や森林をありのままで保全するというのは、先進国から途上国にできるだけ多額の資金を引き出す仕事として、評価されづらいからだと思います」。

「大型機械や医療機器や教育施設がないから自国民が当たり前の恩恵を享受できないという、わかりやすい援助がどうしても優先されてしまう」とも言った。森林や野生動物は、警鐘の声をあげられない。こうして手遅れになって、取り返しのつかないところまで行かないと、人間は気がつかないのだとただ無力感で消沈した。

ところで、もう一つの、ゾウが恩返しに私に仕送りしてくれる夢のような話は、その後立ち消えになったのか話題になることはなかった。ピンナワラのゾウの孤児院は、９４年以降、観光客で大いに“繁盛”していった様子が伝わってきたことから、容易に窺えた。最新の観光ガイドブックによるとピンナワラのゾウの孤児院には、評価の最高点五つ星がついている。入場料にはゾウに乗る体験、水浴びタイム、ミルクタイムなどが含まれていて、増収はもちろん、もしお願いされれば入場者は、目の前のかわいい孤児ゾウのために寄付をいとわないだろうと推測できる。おそらく子ゾウの飼育費も含めて寄付の制度が整備されたに違いない。そうであれば地元住民の希望は叶えられたことになる。孤児になるゾウが減少して、国内外からの寄付も増え、合理的な経営が成り立っていると想像しながら、安堵と幸せな気持ちに包まれた。

ピンナワラ（スリランカ）ゾウの孤児院　1994 Elephant Orphanage in Pinnawala Sri Lanka 1994

孤児院に引き取られた子ゾウ A baby elephant taken in by the orphanage

（了）

第八話     体験報告　～　 お金の話

日本の技術刷新（イノベーション）が世界をリードし、日本の企業ブランドや最先端技術が称賛や憧れの的だった時代があった。特に１９９０年代は、厳密言えば１９９１年から２０００年までの１０年間、日本のODAは世界第一位だった。経済は一流だと、海外の発展途上国から日本の先端技術を学びに来た。

私が6か月間、２回のアシスタント研修監理員の仕事を経て、初めて一人で研修監理員として任された研修は１９７６年の秋から冬に３か月間、東京で実施された「コンピューター技術」だった。アジア、中東、アフリカ、中南米の１２人のシステムエンジニアたちが視察と研修を組み合わせた日程で、１２か国から一人ずつ参加した。

１０月から１２月の寒い時期、東京都大田区蒲田にあった富士通の研究所に３か月間通った。私の分担は荷は重かったが、技術指導は、講義も実習も富士通の講師陣が担当し、さらに企画担当者は外務省の外郭団体のスタッフ、中旗（仮名）さんだった。私も含めて常時４~５人掛かりで、３か月間役割分担することになった。研修初日は中旗さんが参加者へ滞在中の生活費を一人ひとりへ手渡しで支給をすることになっていた。しかし、中旗さんが金額を確認しながら最後の一人、スーダンのハルツームから参加したハッサン氏に手渡すときに、「申し訳ないが、金額が２万円足りないミスをしてしまった。２万円は、後日自分が直接届けます」と謝りながら言ったのには不意をつかれた。「２万円足りないミスをした」ってどういうこと？と引っ掛かったが、そのまま数日が経った。蒲田の研修室で、お昼休みにハッサン氏がやってきて、言いづらそうに「中旗さんに２万円のこと、どうなったか聞いてくれませんか？」と消え入りそうな声で言った。後でと言っておきながらまだ届いていなかったことを知らず確認しなかった私は、さっそく中旗さんのところまで出かけて尋ねた。
「彼は私にも催促したのですよ。払わないと思っているのかな。日本人はそのようなことしないのに心配性だなぁ」などと呑気なことを言っている。
そしてそのまま、私も度々催促したにもかかわらず、とは言っても何も効果なく私もこのミスについては同罪なのだが、中旗さんはハッサン氏の離日の前日、翌日早朝に宿舎を出発する予定だったハッサン氏を訪ねて、終了の手続きとともに２万円返金したのである。
私自身、解決方法は中旗さんの仕事を待つだけではなく、後になって考えればいろいろなやり方を試して解決できたはずだ。中旗さんはと言えば、一人で各国から５０人を超える技術者の受け入れを同時に担当して、休みも定時帰宅もできない状況だったことを、私は知っていたはずだ。一方、ハッサン氏は滞在中、ホームシックだと自分で言いながら、日に日に元気がなくなった。２メートルの長身に合うコートも、当時の東京ではなかなか見当たらず情けなさそうにしていたが、２度とお金の話はしなかった。このまま不足分を踏み倒されるかもしれないと、支給されないことは心痛の種だったのは間違いなかった。急に涙を流し精神的にも不安定になり、危ういところだったのだ。

日本側の実情を言えば、日本の国際協力の研修員受け入れの現場は、経験のない大規模な事業にやりがいを感じながらも試行錯誤の部分もあった。日本は目覚しい経済成長は遂げてはいたが、海外からのエンジニアや行政官を受け入れる技術研修は、外務省とJICA、通産省とAOTSを中心にスタートしたばかりだった。JICAは１９７５年８月に設立されると開発途上国への政府開発援助（ODA）の一環として、技術研修を研修員受け入れ事業の側面からも担当した。日本の技術移転を発展途上の国々の要請にもとづいて行うという制約もあった。外務省が企画と予算、JICAが実施機関と分担されたが、実際の「技術移転」は所管官庁の研究機関、所管法人、技術を擁する専門家（省庁出身者）などの公的グループと、日本を代表する企業等との協力体制が短期間で準備されてきた。

私も海外事情に詳しい人をJOCVに問い合わせ、スーダンのことも知っている元隊員と会うことができた。「２万円はスーダンではどれだけの貨幣価値か」と質問をすると、「スーダンとは、貨幣の意味が日本と価値を比較する術がない」という難解な答えが返ってきた。「公務員の給料がシリングで月額、３００円から１０００円くらいかなぁ。首都ハルツームであれば日常生活で、もちろん貨幣は流通しているが、部族ごとに、もらう、あげる、貸し借り、物々交換でほぼ賄われているコミュニティが存在している」というものだった。滞在のための必要経費は日本で使わなければ意味がないと私は理解し、スーダンの事情を調べた情報を中旗さんに伝え、なるべく早く支給してもらえればよいと考えて、あとは私も日々のルーティンを優先してしまった。
その結果が、離日直前の支給とは最悪だった。呑気だったのは私自身で、取り返しがつかないことをしてしまったと意気消沈した。

それでもハッサン氏からは帰国後お礼の手紙が来て、ホームシックにかかり迷惑をかけたこと、有意義で楽しかった富士通の蒲田研修所、富士通沼津工場での交流、美しい沼津港、そして職場の仲間たちも継続的に富士通の研修に参加させたいとあった。
読んでいるうちに、私の痛恨の出来事はすっかり霞んでしまったのだ。

○よかったことだけを書いて、お礼だけは伝える。
○お金の苦労話は口にしない方が、心豊かでいられる。

この２つを覚えて、私にとっての研修もなんとか終わった。
（了）

第九話    好きな季節

人通りがない札幌市福井の深夜、屋根も木立もすっかり白く覆われている。この通りの明るさは街灯かと思って見上げると、月明かりだった。雪がしんしんと降るとは、まさにこの光景だ。休みなく雪が舞う銀世界に立っているだけで、私も詩人になれそうな気分になる。

翌朝、玄関を開けると、車が屋根まで雪で埋まっていた。お向かいの竹永さんが車の雪を払おうとしている私に、「1年に一度か二度、こういう雪の日があるんですよ」と声をかけてくれた。「車を雪から出したとしても、道路は動けないからね。こういう日は、皆んな仕事を休むんだ～」と、ここは北海道と強調するためか、わざわざ北海道弁のイントネーションを使って言う。「だめなのよ。事務所に行かないと。きょうは東京から出張者とのアポがあるし、人数が少ない事務所でだれか出ないといけないの」。最寄りの発寒駅まで、歩こうとしたが、腰まで雪がある。それではと、ちょうど目の前にいたタクシーに乗ったが、結局タクシーも雪で動けず、でも途中で降りたいと言い出せず、ただ散財しただけだった。本当だ、頑張っても空回りばかりだ。大自然の摂理に合わせて、人間は活動を停止するのが生活の習わしであることを学んだ一日だった。

冬の失敗は数知れずあった。中学生の３年間、札幌に住んだという妙な自信は、たちまち崩れ落ちてしまった。私の学校と友達中心の生活は、家族によって世話され、支えられていたのだった。それは当たり前すぎて、私の記憶の片隅に押し込まれていた。

それでも、札幌の冬が忘れ難いのは、楽しい順境より、起伏の激しかった年月、泣きたかった日々の方が、乗り切ったと思えるのかもしれない。自分が落ち込んだときや慣れない時期を支えてくれた人たちの温かさは、より深く後々まで心に残る。

これが、私が札幌の冬が好きな理由なのだが、好きな季節はいきなり冬というより、その序章から始まる。秋の藻岩山周辺を、歩くときも、運転するときも、紅葉の鮮やかさに目を奪われる。寒暖の落差が激しい地の、紅葉の美しさはこれなのだと、感動を目に焼き付けようとする。眺めるうちに長い冬が待ち構える今にさようならするのは、ちょっぴり悲しくなる。

転勤１年目、藻岩の裾野に拡がる彩り豊かな自然林を眺めながら、私は悲しさと切なさを確かに味わった。なぜ、私はこんなにもの寂しいところにいるの？友達も多い大好きな北海道で、なぜこのような気持ちになるのかわからない。だからどんなに紅葉が美しくても、寂しい秋は好きになれないと思ったのに。

もの寂しい気持ちになっても秋が好きなのは、寂しさや悲しみで、人間の内面が深められていく錯覚や自己陶酔があったかもしれない。

札幌の秋と冬は素敵だった。

了

第十話　春の愉しみ

家のなかにいるより、庭に住んでいたいと感じるほど、外気のなかで過ごすのが好きだ。

庭で深呼吸すると、睡魔も消えて活気を取り戻す。夏の焼きつく炎天下ではなく、蚊が出現していないアウトドアの期間は短く貴重だ。それは草花が芽吹きだす春しかない。庭は実家と地続きで、私が独り占めしているので広さは十分だ。

草花を育てたり、ましてや野菜づくりなどはちょっと試したことはあるが、すぐにあきらめた。初収穫の日、虫食いだらけの地図模様のキャベツに対面したときの挫折から、再起する理由も気力もなかった。野菜はプロに任せるものだと、自信をもって言えるようになったことが私の収穫だった。

紅梅白梅が毎年約束しているかのように一斉に咲き始め、やがて紅白のハナミズキ、ねむの木の赤い花が開く。つづいてツツジ、ボタン、いくつかのハーブも待っている。これらは主として樹木の花で、私が手入れをした草花は一つもないのでひけめを感じる。

それではと、春から初夏まで、ドクダミやタンポポなどを取り除いて、少し周辺環境を整えてあげると、あとは放任しておいても花や香りを楽しむことができる。シラー（釣り鐘水仙）や名前は知らないが紫や赤紫の花、ハーブのなかでもセイジ、ユリとワインレッドのひまわりは、怠惰な私と相性がよい。セイジが好きなのは、ハナアブがたくさんやってくるからだ。ハエ科だそうだが外観はミツバチより鮮やかな色彩で、愛くるしい。

もともと、犬を３頭、庭で放していたこともあったのでいつも草花は脇役だった。犬がいたころは庭に猫は来なかったが、今は猫が３匹ぐらい時間差でやって来る。なぜか長居はしないが、のんびり過ごしているようだ。おそらくスポンサーのところに帰るらしいが、猫の行動は私には謎である。猫は草花を踏んだり庭を荒らしたりしないし、寝たりゆっくり歩きまわっている。猫との付き合いを深めるには、猫にお仕えする心構えが大切だと猫好きの人は言う。自分がそうなってしまうことは絶対に避けたい。食べ物は顔を見たら食べさせ、傷を負っている猫のためには獣医さんと相談して、化膿止めを常備している。距離をおいているつもりがだんだん狭まって来るのが気がかりだ。庭に猫が出入りするようになって、私は自分の関心がもともと無関心だった草花の手入れから、急速に猫に移っていくことが悩みの種だ。

気を取り直してユリとミョウガの周辺の草を注意深くとり除いて成長を助ける。ユリと見分けがつきにくい草が周辺に必ずまとわりついている。注意して見るとユリよりやや葉が薄く形状も微妙に違う。親身になって世話をしないと、間違えてユリを引きぬく失敗をしてしまう。「花は足音で育つ」と教えてくださった都立園芸高校を訪問したときの、先生の言葉が耳に残っている。

今年のゴールディンウィークは、遅くなってしまったが、赤、黄、白、ピンク、オレンジのユリを球根から植えて犬や猫のように、愛情を注いで育ててみようか。そんなこと私にできそうもないが、なんとか猫を超える愛着が持てると、今後の生活が穏やかになる予感がする。「猫よりユリの方がかわいい」と呪文をとなえる。

その前に、猫が庭を歩きやすいようにもう少しだけ、雑草と言われる伸びる若草を刈っておこう。春を迎えて、初歩の園芸と猫との付き合いを、どちらもほどほどに愉しむ新たな挑戦をしてみようと思いついた。

了

第十一話    花にまつわる話 　～　大根島

島根県松江市の東部に中海という、淡水と海水が混ざった汽水湖がある。大根島はほぼその中央に位置して、全国のボタンの苗木の8割を生産している日本一のぼたんの産地である。

島の名前が「大根」であることの由来は諸説あるようだ。大根島は朝鮮半島や中国からの渡来人が、初めてぼたんと朝鮮人参を栽培し、次第に島中に普及した。島の人々は、当時から珍重された、高価なぼたんと朝鮮人参によって生計を立てるために、ぼたんや朝鮮人参を島で栽培していることを、島の外へと広まらないように、「大根の島」と島の名前をつけたのだという。私はこの冗談めかした由来が本当ではないかと、今も信じている。

１９７０年代までは、大根島のぼたんの行商は、全国各地で、行われていたと記憶しているが、時代に沿った流通に瞬く間に切り替わっていった。

私の松江の従弟、忠志さんが、ぼたんの苗木を１０本ぐらい、５０年以上前に送ってくれた。故郷の松江を父が懐かしむと思って届けてくれたのだろう。両親が亡くなってから20年たったが、その中の数本が、その後も毎年ピンクと赤の見事な花を咲かせる。これまでもぼたんは、花が咲き終わるとそれほど顧みられず、私は犬たちと一緒に踏んだり折ったりしたかもしれないのに、ぼたんは健在なのだ。これらのぼたんには、開花するたびにお礼やお詫びを言いたくなる。当たり前に５０年間咲き続け、黙って存在しているだけなのに、ぼたんと私は、両親や松江の親戚、代々の犬のことを話題に語り合ってきたと、今更ではあるが感動する。思わずそのぼたんの写真を撮って人に見せたいのだが、一番見せたい贈り主の忠志さんは、スマートフォンなど使わない。電話で知らせようか、写真をプリントして送ろうかと頭をよぎっても、実行できないで今年も過ぎてしまった。それにしても花の命ははかないというが、本当にそうだろうか？５０年は生きているではないかと首をかしげたくなる。もっとも、「花の命ははかない」と日本の和歌でうたわれている花とは多くは桜のことである。島根県の県花は、ぼたんであることはあまり知られていない。

2019年に仕事で大根島に立ち寄った。短時間だったが、様々な牡丹園や関連施設でにぎわっていた。朝鮮人参は雲南人参、高麗人参と、それぞれ中国と朝鮮半島の由来別に呼ばれていた。世界各国からの特にぼたんとつながりが深い中国からの観光客を期待するためには、日本人だけの嗜好では産業は維持できないのだろう。華美でゴージャスすぎる！ぼたんが追いかけて来る！熱烈な展示が観光客には人気なのだ。一方で、大根島の風景に馴染む自然体のぼたんの苗木栽培を継続したい、本来の日常を残そうという行政や市民の意思も感じた。奈良のように「ただの田舎」と観光業者や投資家に批判や嘲笑されながらも、と私は奈良も大好きだから思うのだが、大根島も有名になっても、「ただの田舎」と呼ばれたら素敵だ。大根島の住民の壮大な歴史を想像しながら、思い思いに歩き回る人たちも島の文化や産業に歓迎されるように、私もぼたんの苗木を買いに、近く行ってみたい気持ちになった。

（了）

第十二話     好きなスポーツ

卓球とつかずはなれず

私が小学校4年生ぐらいから、卓球台やラケットをそろえて、家族６人で卓球にしばらく熱中していた。東京の雑司ヶ谷に住んでいた頃だった。なぜ卓球がブームだったか以前に調べたことがあったのだが、１９６０年前後の１０年間ぐらい、日本の卓球は荻村伊智朗という選手を中心に、世界選手権やアジア大会などで金、銀、銅のメダルを大量に獲得していた。両親や叔母から荻村伊智朗選手の名前は繰り返し聞いていた。卓球の話題が盛り上がっていたらしい。したがって、全国津々浦々で、実際に卓球をやってみようという人たちが増加していたので、卓球台を買うということはそれほど珍しいことではなかった。母が率先していた記憶があるが、ニッタク製の正式な、つまりおもちゃではない卓球台だった。家族でピンポン大会もやった。スペースがないので卓球台は庭に出したり、家の中に入れたりやりくりしながら、使わないときは、屋根が張り出している家の壁沿いに収納していた。

さっぱり上手くならないのは、誰一人きちんと卓球を習った人はいないからで、現在のように教えてくれる卓球教室もコーチ派遣もなかった。母は習ったことがあると言って、たしかにフォームだけは選手のようで、たまに凄い球を打ち返すところを除けば、家族全員似たもの同士だった。そのような中、２年間は継続したと思うが、皆思ったほど上達しなかった。ただ、卓球は楽しかったという思い出と、自分は卓球ができるという思い込みは残った。

スポーツから遠ざかっていたのは、大学だけで、中学校、高校、社会人では、あきっぽいのかほぼ３年周期で熱中するスポーツを取り換える。熱心だったのは中学のクラブ活動の軟式テニス、高校のクラブ活動のバレーボール、社会人になってからのスキーやスケートにゴルフ。水泳も乗馬もドライブも数年は続けたけれど、卓球はスポット的に誘われればという程度で、頭数を揃えるために参加した。

もし、自分が楽しめるスポーツを生涯続けることを考慮していたら、卓球を中学や高校から部活などでスタートさせていただろう。それをその時の浮ついたトレンドや衝動、格好よさでいろいろ遍歴してしまった。まったく無駄とは言わないが、自分が鍛えた趣味なりスポーツではなかったので数年費やしたとしても、つまりはお付き合いの一過性だった。転勤や付き合う人間関係が変わると、消滅していった。

卓球で思い起こすことは、２０００年の初め、タジキスタンに日本の大学院で学ぶスカラーシップの仕事で出張した。宿泊先のホテルの庭に、立派な卓球台が置いてあって、お昼休みにホテルの従業員たちが卓球をしていた。大理石の外装のホテル、シャクヤク、ユリ、ツツジ、名前はわからないがランに似た花が咲き乱れる庭、ゆったりとした空間のなかに置かれた卓球台で行われているラリーは、別のスポーツのように壮大に思えた。宿泊客のために置かれているようだが日中は使う人は少ない。私はすぐ参加させてもらい、相手は宿泊客か従業員かわからないが、皆な、台から１メートルは離れてプレーする進化した打ち方だ。ホームピンポンの延長版では時代遅れだと、身に染みた。

その後も中国の経済力と国力をみせつけるように、と私は想像したのだが、ASEANやアフリカ諸国で、卓球が日常のスポーツで普及し続けていることを実際に見聞したし、在外経験者からも聞いた。いつまでも体育館の片隅で練習しているだけのイメージは塗り替えられて久しいのだと、そのとき思い知った。

２０１０年以降、日本の卓球競技はスター選手も次々と誕生し大変な人気になっていると感じる。趣味で楽しむシニアの卓球も盛んになっているはずだと、SNSで調べてみると、シニアのための卓球教室や個人レッスンが多少高額でも繁盛している様子だ。時代とともに卓球の技術やスタイルが進化するため、常に先端を目指して楽しむプレイヤーは存在するのは驚くことではない。さらに長く日の目をみなかった、ラージボール卓球というのが瞬く間に普及し始めている。初心者や若い人も、競技というより遊びでもラージボールを楽しむ人が増えているそうだ。卓球ボールの直径が4ミリほど大きく、色はオレンジ、ラリーが続くようにボールが軽くできている。生涯スポーツの筆頭に、卓球やラージボール卓球が来る日が近いに違いない。

趣味やスポーツは、先々を考えて選ぶものではなく、好きでやりたかったら経験することが、人生を豊かにする、などと無責任なことを言う人間の一人であった私は、ごく最近考えを改めたところだ。

生涯楽しめることを考えると、若い人にはまずは「自分が好きなスポーツをやればよい」。次に「同時に、例えば卓球を細々でもやめないで続けると、卓球は遊びたい時に一緒にいてくれるから」と私の賢察をもってお勧めしたい。

了

第十三話    テレビが日本のお茶の間にやって来た

はるちゃんと私は、千葉市で幼稚園から小学校３年生まで、仲良しだった。本当はずっと仲良しでいたかったのだが、はるちゃんは３年生の後半で、千葉市から東京の小学校に転校してしまった。幼稚園で、はるちゃんのお弁当箱が大きいとからかう女の子がいて、その周囲の子たちも一緒になって笑っていた。だけどなぜか私がそばにいると、その子たちははるちゃんに意地悪を言わないので、はるちゃんが私を頼りにしてくれた理由の一つだったかもしれない。はるちゃんの家に遊びに行くと、立派なお屋敷でびっくりした。庭だけで４００坪だとはるちゃんは大人から聞いた広さをそのまま繰り返したが、それがどれほどの大きさかは私たちもわからなかった。ひょうたんの形をした大きな池に鯉が何匹も泳いでいて、細長い寒天のような棒状の中に黒い粒が数珠のように連なっているのは、カエルの卵だった。それが春を過ぎると無数のオタマジャクシとなって泳ぎ始める。ビワやモクレンなど、樹木が森のように見えた。物置とお庭で、真っ白なチャボを3羽、ペットで飼っていて、近所の八百屋さんのシェパードが産んだジョージという犬もいた。お父さんがアキタ犬なので一番賢く強い犬だと言っていた。テレビもラジオもない時代、ラジオはあったのだろうが、それを聞いたことは記憶にないので、もっぱらはるちゃんの家で、探検隊のように時間を過ごしていたのだろう。

はるちゃんの家も私の家もテレビはなかったが、はるちゃんのお隣の鈴木先生のお家から「テレビが来たので、見に来ませんか？」とはるちゃんのお宅にお誘いがあり、私もついて行くことになった。１９５３年か５４年ごろのことだ。。家が近いので夕方早めにお食事を済ませてから、鈴木先生のご家族と一緒にみんなで見るのだ。はるちゃんの弟や他の家の子どももいたような気がする。ケーキやココアを出してくださるのが、テレビと同じくらい愉しみだった。お部屋の中も広々として、ビアノやソファやどっしりとした織物のカーテンなど別世界だった。情けないことにテレビで何を見たのかさっぱり覚えていないのだ。あんなに食い入るように何を見ていたのだろう。ご主人の鈴木次郎教授は千葉大医学部病院の整形外科医で有名な方だった。鈴木夫人は癌治療でのちに著名になられた中山恒明先生の妹さんだった。私たちより少し年上のお兄さんとお姉さんがいらして、私の両親もはるちゃんのお家でも、鈴木家は何か格上のお宅だという雰囲気があった。お金持ちとかを称賛するのではなく、鈴木教授は、日本の整形外科の草分けで日本の先端医療を担っておられると同時に、穏やかで人望を具えた方だったようだ。夫人は容姿がきれいだというだけではなく、自然体で表情豊かで素敵だった。一緒にいるとみんな明るい気持ちになって、くつろいでしまうのだった。鈴木先生は私が大学生のとき、千葉市内か東京かは思い出せないが、ＪＲの駅のプラットフォームで突然具合が悪くなられて椅子にすわられてそのまま急逝されたのだった。

はるちゃんのご両親もお通夜に東京から来られたそうだ。思い出すことは、一度鈴木先生が居間におられて、「いらっしゃい！」と言われてご挨拶したことがあった。その時は私たちがテレビに目を見張っていると、嬉しそうにして、立ち上がってチャンネルまで回してくださった。父の話では、鈴木教授ご夫妻は米国に数年は住まわれていたので、もちろんテレビはとっくにご存じだったのだ。

同じ大学病院で皮膚科の医師だった父は、普段は口数が少ないのだが、鈴木教授のエピソードをとつとつと語りながら偲んでいた。
「鈴木先生のようなトップクラスの整形外科医は多忙極まって、一日中立ち続けて、次々と大手術をするから、自分のことなど考える暇がないのだ」とも語った。

そのような立派な方のお宅で、人生で初めてテレビと出会ったことは、私の密かな自慢話になりつつある。これを確かめ合う人ははるちゃんしかいないのだが、東京の高校を途中から名古屋に転校したはるちゃんは、今は東京にいるのは知っているが、年賀状だけの付き合いである。楽しい思い出深い日々を過ごした人には、必然がない限り会わない方がよさそうだ。数年ぶりであれば予想したとおりの心地好い出会いはあり得るが、半世紀ぶりとなると、再会には自信がない。だからはるちゃんとだけ、一緒に思い出せる素敵なテレビの時間だったと、一人で大切にしまっておくことにしよう。

（了）

第十四話  女子だけの学校　　　　　　　

１　西生田　(神奈川県）での寮生活

四月の高校入学式に知子の両親は、転勤先から東京に戻れず、彼らはしばらく、地方勤務を続けることになった。そのため知子は高校に学生寮がある、女子大の付属高校に入学したのだった。３か月後に両親が東京に戻ってくる予定なのだが、この高校では、一度寮生になると、１年間は寮生活を続けなければいけないという規則があった。地方と言っても県庁所在地の大都会に住んでいたのだ。１９６０年代の神奈川県西生田はまだ山の中の未開発の地域に思えた。たしかに自然に囲まれ、空気が澄んだ、騒音もないところで、学校側や寮生の保護者たちは娘たちの勉強や生活には最適だと安心したかもしれない。通学生たちは、小田急線の西生田駅から校舎までの舗装された通学路を、朝の登校時はかなりの上り坂を１５分か２０分歩く。ちょっと寂しい環境ではあったが、それよりも中学を卒業したばかりの女子が、３棟の寮で親元を離れて暮らすことがどのようなことか、毎日、少しずつ知ることになる。お部屋は知子の他に２人の１年生と、年長の３年生が１人、２年生が１人の５人部屋だった。寮では名前に「様＝さま」をつけて呼ぶのがルールで、最初は丁寧過ぎて奇異に聞こえたが、まもなく慣れた。年長の潤子様は千葉市、２年生の三和子様は東京の下町、台東区蔵前に自宅があった。知子の同級生となる美奈子様は福島市、まり子様も下町の台東区だった。部屋の２人は東京に家族がいたが、東京各地から神奈川県の西生田まで、当時は、現在のように交通機関の路線はいきわたっていなかった。高校の校舎のある西生田に行くには、東京の人でも自宅から新宿駅まで行き、新宿から小田急線に乗って自然の残る田畑や森林のなかに入っていく気分だった。東京の地域によっては小田急線の出る新宿まで１時間、新宿からさらに、急行や準急が止まらなかった西生田駅までは１時間はかかった。

知子の高校在学中に、小田急電鉄が、駅名を西生田から「読売ランド前」に変更するという発表をしたため、西生田の住民が反対し署名運動があった。その間は、寮生も通学生たちも「西生田」に愛着があったと思われるが、どちらでも仕方ないと傍観していた。知子が高校に入学した年の6月に、両親たちが東京の雑司ヶ谷に戻ってきたので、知子は翌年３月に無事１年間の寮生活を終えて自宅から通う、通学生になった。

２　明るく聡明だった親友

知子にとって女子だけの学校というのは初めてで、どのようなところか考えることすらしなかった。私の偏見かもしれないが、生徒だけではなく、女性教師のほぼ全員が、幼稚園から大学までの一貫教育の、どこかの段階で入学し学んだこの女子大の出身で、知子には、周囲の人たちはみんな似た者同士に映った。数十名の教師全員が女性ではなく、そのうちごく少数の３～４人は例外的に男性の教師だった。学校が先生も生徒も女性だけということではなく、教師も生徒も同じような教育や環境で育ったと考えられる同質感に最後まで馴染めなかった。そのようななか、高校に入学して最初に席が隣になったのは島田三保さんだった。お互いに席に座ると手短に自己紹介をした。三保さんは、「そうなの？知子さんも静岡生まれなの？」と嬉しそうにほほ笑みながら続けた。「三保という名前は、三保の松原から親がつけたのよ」。慣れない環境に心細かった知子は「父の転勤先が静岡で、両親は東京から静岡に引っ越し、私は静岡市西千代田で生まれたの」と自分を紹介した。同じ年とは思えない、どこか思慮深いところがあり、飾り気がない三保に知子はたちまち親しみを持った。高校１年のときは、知子も三保も親元を離れた寮生だった。地方の生徒のために校舎のすぐそばに３棟の寮があり、知子は１年間第一寮で、三保は３年間第二寮で過ごした。寮生活では、１５歳か１６歳の高校１年生たちは、昼間は教室や寮で、新しい生活で気持ちが張り詰めているが、夜になると両親や家族を思い出し、布団の中で人に知られないように、しくしくと泣いた。ベットではなく和室に毎晩、布団を敷いて寝ていたので、隣の寝床は近かった。知子も夜になると、どうしても家が恋しくてわからないように泣いてしまうのだが、ある時、知子の隣の布団で寝る、福島から来た美奈子様も、眠りにつくまで毎晩泣いていることに気が付いた。

知子は三保の他にも話し相手はできたが、知子の左隣の席で、人の話に耳を傾け、明るい表情で話し始める三保との会話が一番楽しかった。三保さんの読書は日本文学の森鴎外、夏目漱石や谷口潤一郎や三島由紀夫など難解そうな本を多読して、読んだばかりの本の話をよくした。当時は海外文学のそうそうたる翻訳者たちのおかげで、古典も現代ものも欧米を中心に英・独・仏・露・中・西語等、たいていの国の作家や哲学者の小説や伝記、日記、書簡集など日本語で読める時代だった。知子は海外文学、特にトルストイやツルゲーネフ、ライナー・マリア・リルケ、フロベールなど学生が好んで読む小説や、画家、哲学者の日記や書簡集などを読んだが、三保はそれらにはあまり関心がなく日本の明治以降の小説が好きだった。

知子には姉妹がいなかったので、三保が話す「３人の姉たち」には興味深々だった。「３人の姉も実はこの学校に行ったのよ。今２人は大学にいるの」と三保さんは隠し事のように語った。同時にご両親のお考え、例えば娘たちの結婚相手はどのような人でなければいけないか、大学はどのような大学で学んだ相手がよいのか、四人姉妹の日常の話なども問わず語りにしてくれた。三保さんが目指す目標は、その理由が、ご両親や姉たちからきちんと教えられていて、三保さん自身が自分の進む方向性に納得しているようだった。四人姉妹は、ご両親が国立大学の医学部出身の医者と結婚することを強く望まれ、(当時は国立大と私立大の医学部の入学金や授業料は、後者が著しく高かった）三保もご両親がされたと同じような家庭をつくりたいと思っているのだ。ご両親のお手本を見て育っているのだから、自然なかたちだと思うが、親が望むこととは違うことがしたいと考える姉妹は誰もいないようだった。三保さんは「親はこう言うのだけれどまぁ、しかたないわね」と明るく笑い飛ばすときもあった。

知子の両親は、子供たちに何か進むべき道を諭したり、こうなってほしいと繰り返し言うようなことはなかったと気が付いた。知子の内心は時には三保さんを気の毒に思ったものだ。そのときはそう感じたが、振り返ると、時代や経験を踏まえて現実的、具体的な指針を家族のなかで話し合い、親が子供たちの人生はこうすれば安全で幸せだと勧めるのは間違っていない、むしろ必要ではないかと考えるようになった。知子の家では、大学生になってからも、個々人が抽象的な、あまりにも将来の日常生活とはかけはなれた話題ばかり議論していたように思う。知子の家では、知子が小学校の頃から、父親の故郷の親戚や、友人、職場の後輩や新聞社の記者たちが時折訪れ、話題は社会や教育など、真面目な話もあれば面白い話など、母も一緒になって議論に参加していた。三保さんの家庭の様子が自然と伝わってくるにつれて、知子は、将来のことはまったく成り行きに身をまかせて、が彼女が生きていく上での知識や手段をどうにか得たものだと、自身の計画性のなさにぞっとした。両親は、教育は最優先して考えてくれたようだし愛情はいっぱい受けて育った。教育と愛情を与えれば、それで十分だと安心していたようにも思う。失敗や困ったときには両親は精一杯助けてくれたが、あとはなんとかなるという感じで、処世術的には危なっかしい家庭環境だったのではないかとすら思う。のちに知子が社会に出て多くの人に会ってからわかったことに、三保さんには彼女の「家」の考え方が代々伝えらえて、三保さんはその考えを踏襲して実践してきたのだ。

３　幸せだった四人姉妹

「四人姉妹って、オルコットの若草物語のようで素敵ね」と知子が日頃思っていたことを口にすると、三保は「父の考えに母が従い、両親の考えに私たち姉妹が全員、影響されて行動するところは似ているかもね」と答えたが、知子はそこまでオルコットは知らず、ただ三保さんのようにきれいな姉妹が四人、仲良く助け合って暮らすことが素敵だという意味だった。

大学卒業後まもなく三保さんは、静岡で医院を経営する家に嫁ぎ、二人の男の子を本人と家族が望む医学部に入学させた。このあたりまで、お互いに近況など手紙や電話で交換し、時には東京で会った。

ただ四人姉妹が仲良く助け合ったのは結婚するまでで、彼女に会うたびに知子が聞いた話は、遺産相続を巡る裁判の成り行きだった。三保の話し方は、高校時代から変わらず、深刻なことや言いづらいことでも客観的に可笑しそうに、笑い飛ばしていた。しかしながら、これが何十年と続いたため、私は三保の人生には庶民にはわからない、大きな不幸が降りかかって一生そこから抜けられないのではないかと、長い間思い込んでいた。会いにいくのも、都合を聞くのも遠慮しがちになった。ところがその不幸と知子が推察した顛末は、よく聞いてみると、長期間の争いとなった裁判を重ねるうちに、まず４カップルのそれぞれの夫婦間の、どこでもあるちょっとしたもめごとや気に入らないことなど、きれいに吹き飛んでしまった。たしかに四姉妹の間に入った割れ目は修復できなかったが、４組の各夫婦は裁判の度に結束が深まり、同志として戦っているうちに、今やいずれのご夫婦も以前よりずっと仲睦まじいというのだ。今年２月に入ってから久しぶりに三保さんから知子に電話がかかってきた。今年は年賀状が書けなかったという説明だった。「昨年暮れに、くも膜下出血で自分の部屋の前で倒れてしまった。どうしても動けないときに、その３分か４分後に隣接の病院にいた主人が家に戻って来て、偶然通りがかってくれて助かった！」と言っていた。それでもリハビリをしてどこまで回復できるか、がんばっているところだそうだ。

たしかに相当な心労が長く続いたのだろう。しかしながら、親族間の争いの果てに、それぞれの4組の夫婦に、より居心地のよい夫婦関係と居場所が待っていたということ、そして、なによりも倒れた三保さんがすぐご主人によって発見され無事だったという度重なる朗報に、知子はその晩、寝るのがもったいない嬉しい気分にいつまでも浸っていた。友人の幸運が、自分の身に染みる喜びになるという、あまり体験したことのない心地よさを感じながら。

（了）

第十五話 　　読書の楽しみ　　―読書履歴から―

コロナ期間中、在宅リモートで最小必要限度の社会活動を行いながら、私は定期的な書籍の整理を始めた。毎回、たいした成果は上がらないことはわかっていても、習慣だからとりかかる。

家族が置いていった本は別として、自分の本は今度こそ捨てる以外の方法で処分すると決める。地方の古書店が、国際標準図書番号（ISBN）がある書籍は郵送料は無料で、書籍はささやかな料金で引き取ると、専用段ボールを沢山送ってきた。これも活用しよう。

家中の本を整理すると言っても、平行してそのなかから、読みたい本にはざっと目を通すということをあきらめないから、結局は目的をなかなか果たせないのだ。整理する本を読みながら選別するということでは、片付かないとすでに経験済みだが、「本を大切にする」教えを受けてきたので、本のかたちをしているものに対しては敬意を抱く。

まず、庭のプレハブに書庫をつくってある中に入る。この中に、買っただけで読んでいない本、学生時代に読んだ愛読書のうち、今は読まないがそばに置いておく本がある。すでにある程度カテゴリ分けしてあって、もう一度目を通してから処分を決める本から作業を開始する。最近では最も頭脳を使う仕事でもある。

中学以降、学生時代、さらに１９９０年代までに読んでよかった書籍の書棚から本を２００冊ほど取り出す。転勤先の札幌の家でオーダーした床から天井まで壁一面を覆う書棚はとてもよくできているので、東京に戻るときは、書棚も本と一緒に持って帰った。

１　青春時代；レフ・トルストイ、フローベール、エミール・ゾラ、・・・

高校生の時、レフ・トルストイの作品のなかで最初に読んだ「幼年時代」「少年時代」「青年時代」。このなかのネフリュードフっていう人が、素敵だとあこがれたことを思い出し、真っ先に目を通した。しかしその素敵なその人物は見当たらず、同じ本のなかでの再会ができない。たしかに名前はネフリュードフに間違いないのだが、もしかしてこの覇気のない、弱々しそうな人物を、物静かで思慮深い青年だと私は思い込んだのだろうか。私は何かもっと魅力の決定打があったのではないかと焦ったが、最後まで何もなかった。今の自分が生物として劣化した結果が招くのか、10代20代は感受性豊かでも、つまり物事がわかっていないのか、どちらかはまったく見当がつかない。

この類いの本に１９世紀から２０世紀の作家、フローベールやエミール・ゾラ、バルザックはじめ数人のフランスの詩人や作家のものがある。だから愛読した「感情教育」や「居酒屋」は目の前にあっても読み返さないことにした。青春の愛読書は永遠でなければいけない。「小説家たちが書き上げた小説は、10代20代の読者のために書かれたのではない。社会人、熟年になってから読むと味わいが違う」という言葉に私も多少は賛同してきたが、そうではないと考えを翻した。若く敏感な感受性だから、心身に響き渡り、脳や心に染み込むのだ。私にとって小学校から青春時代にかけてが、本を読む最適の時期だった。

２　ライナー・マリア・リルケ

そのなかで、ライナー・マリア・リルケは、高校生の時から現在に至るまで薫陶を受けているのでそのまま５０冊ぐらいを書棚に並べなおす。仕事を退職したら、ライナー・マリア・リルケ生誕の地、プラハから創作活動やゆかりの地、リュクサンブール公園を中心にパリ、ロダンにゆかりのロダン美術館、オルセー美術館を巡ってみようと長い間一人で計画を温めてきた私。なかなか退職の日が来なかったので、退職を待たずに２０１８年と１９年に、これらの地を２回にわけて、それぞれ３日間しか時間がとれなかったが一人で歩いた。駆け足だったので、次回がもしあるのであれば、リルケが最初に影響を受けたと書いている小説家ヤコブセンの出身地デンマークやリルケが直接間接交流した画家たちの絵や彫刻のあるオランダなどどこでも足跡を追いたい。そしてもちろんドイツやスイスにも。

３　子供の図書

小学校のときの本も出てくる。特に本の読み始めの小学校では、私たちの時代は海外からの童話や子供用に編纂されたヨーロッパの小説や、欧米の偉人の伝記が主流だった。戦後は、日本は欧米の民主主義を学ぶべきという、米国の方針を受けた日本政府は、欧米の歴史上の人物や童話、小説などを、従来の日本や中国の古典よりも優先させた時期が、日本の終戦以降、東京の私の周囲では１５年間は続いた。小学生用の本としては野口英世博士より先にシュバイツアーを読み、女性ではナイチンゲールやキューリー夫人の本が普及した。日本の江戸や明治時代の日本の指導者、その多くは学者や哲学者たちであったが、例えば吉田松陰はじめ、日本の近代化に尽力した学者や政治家よりも、リンカーンやジョージ・ワシントン,トーマス・エジソンなどが普及していた。

一方で中国の古典も子供が読める本が出版されていた。中国の古典は、歴史的には欧米の書籍とは比較にならないほど日本に浸透し、漢詩とともに特に日本の知識層を中心に愛読されてきた。したがって「水滸伝」や「西遊記」、「紅楼夢」に至るまで子供用に編纂された本が人気だった。

近くの本屋さんから、ヨーロッパの童話や小説、シャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパンのシリーズも続々と届き、私は小学生時代はルパンが大好きだった。我が家でも他のことは節約しても私や弟たちが読む本は率先して買っていた。日本の敗戦で、旧憲法や法律は改正されたのだから、子どもだけではなく、公務員も民間人も、欧米を参考に勉強することには社会全体が熱心だったように思う。

今振り返ると、日本の戦後の復興のために、日本の偉人や文学作品などは、欧米が目指す民主主義と歩調を合わせるべき日本の次世代に、軍国主義や悪影響与えるものであってはならないという文教政策があったかもしれない。米国のGHQの方針を引き継いだ日本の文部省を中心に、欧米の民主主義からの視点から、まず日本のこれまでの教科書、次に文芸作品や日本人の伝記などの評価を再点検したと思われる。併せて欧米の言語の翻訳本も普及され小学生や中学生用に編纂することは、当然の成り行きだったのだろう。教科書で優先されるべき作品についての議論は、当時の文部省の懇談会議事録が公開されている。その一つに懇談会に参加していた米国出身のドナルド・キーン博士（日本文学・日本文化）が、日本の有識者たちが日本独自のやまとことばの作品よりも、中国の漢詩や古典を好み、熱心に日本の教材に推薦することは一貫していて興味深かったと所感を述べていた。

上記に関連して言えば、終戦2年前の１９４３年に、兵役免除だった大学生も急遽出陣する対象になった。その数は１０万人ともそれ以上とも言われているが政府は未だに把握できないのか公表していないようだ。学業半ばで戦場に行き戦死した日本の若者の日記・手記などは当時日本国民は読むことはできず、知るよしもなかった。しかしながら、「アンネの日記」は日本でも大変な評判になって私も読んで深く感動した。学徒出陣で特攻隊や前線で出撃した日本の若者の苦悩の手記や実話が、家族などの手で出版され始めたのは１９７０年前後からだと記憶している。本人たちの死後、書いたものが兄妹たちの手で出版される先陣を切った、東京大学の和田稔さんや京都大学の林尹夫さんの著書を読んで、私も大きな衝撃を受けた一人だった。若者はみんな「天皇万歳！」と言って喜んで死んで行ったと軍部や新聞は伝えていたが、そうではなかった。現在でも学徒として出陣させた８０校近い大学が、戦死した学生の手記や記録を資料として公開したり、著作として出版し、２度と過ちを繰り返さないと平和を誓っている。

４　吉川英治、松本清張、村上龍、清水義範、米澤穂信、中原清一郎（敬称略）

大学生や社会人になって、私を日本文学に引き寄せてくれたのは吉川英治で、「宮本武蔵」には、これまでになく没頭として自らにも武蔵と同様に10年の修行期間を設定してストイックな生活を始め、その流れで「五輪書」もバイブルだったし、村上元三の「佐々木小次郎」の小次郎は気に入った。もちろん私にストイックな生活など続くことはなかった。

社会人になった80年代以降は推理小説を、人からおもしろいと聞いたものを読んだ。松本清張では特に最晩年の「象の白い脚」、ラオスのビエンチャンの描き方は私が感じたとおりで、ビエンチャンで起こりそうな出来事に感動し、この本を勧めてくれたJICAの久野さんにはお礼を言った。松本清張は、叔母が読んでおもしろいと言った「点と線」と「砂の器」をもらったのがきっかけだった。清張の作品はドラマや映画化されているので、永遠に楽しめる気がする。

自分の分身のように楽しめるのは、村上龍で、同じ時代を生きて同じ音楽の中で青春を過ごしたことが大きい。「５５歳からのハローライフ」や「ユーチューバー」など時代に沿った本が好きだ。村上龍は進行形の愛読書なので整理対象外。愛読書と言えば、中原清一郎（外岡秀俊）の「北帰行」「カノン」「未だ王化に染はず」などの小説が好きだ。３冊とも私のなかでは愛着度は群を抜いている。「未だ王化に染はず」は、学会や研究やメディアが取り残している北海道の研究を外岡氏が考古学の視点を取り入れて捉えていたことに驚愕し感動した。それを背景に、小説家であるもう一人の自分、中原清一郎に書かせているのだ。外岡氏と札幌で同じ中学の同窓であったこと、私が朝日新聞社が後援に関わってくださった仕事の合間に、何度かお話できたことは私の自慢話だ。多くの人々が様々な期待を彼に寄せていたなかで、私も彼の小説のファンとして外岡さんの小説をもっと読みたかった。これからと言うときに２０２１年１２月２３日に札幌で急逝された。

清水義範は比較的最近読み始めた。やはり友達が、面白いと言って「やっとかめ探偵団」を教えてくれた、この怖さがちょうどよかった。怖さにもいろいろあるが、私の日常でも起こりうるような何気ないが、本当は怖い話で、この時期は犬もいなくなって、夜一人で読んでいるうちに怖くなり、なんども鍵や戸締りを点検に歩き回った。ところが聞いた話では、著者本人は、「やっとかめ探偵団」で怖い話を書いたつもりはないそうだ。そうであれば老人たちの生活の世相を描いたということだろう。「グローイング・ダウン」「秘湯中の秘湯」を読んでから短編集を今着々と読んでいる。これまで私の知らなかった世界だった。同時に私が好きなのはご夫婦で海外に出かける作品だ。インド編を読んだときは、私はインドには残念ながら行ったことはないが、学生時代は７０年代の欧米の学生たちと同様、親インドの嗜好があり憧れた。その後の仕事で大勢のインド人と会っている私は、インドの話は全部腑に落ちた。これがインドだろうと期待を裏切らずに共感した。このご夫婦は日本から一歩も出たことがないようなそぶりを見せながら、実は国際的センスにあふれていて、どこにでも住めるし愛される人たちだという印象が強かった。私がそれまでふれていた清水作品とは違う内容で大いに驚いた。猫の話もそうであったが、作品に清水夫人が現れるととても温かく落ち着いた気持ちになるのはご夫婦版の楽しいところだ。あまりにも多作でこれから私の人生のなかで全部読めるかわからないが毎日楽しみがあるのは有難いことだ。

実は私は清水作品に占める「ばかばかしい話」や「パロディー」とうのがわかっていないし、馴染んでいないので、今でも簡単にはついていけない。清水作品を本当に楽しめてはいないかもしれない。それより清水義範という作家は、とてつもない知識人で教養ある人であるところには惹かれる。小説は作り話でもあるはずだが、その土台と細部がきちんと勉強されていて、いい加減ではない。私はフィクションこそ、土台、縦軸、横軸、細部がしっかりと計算され尽くされて書かれた創作で、従って事実を書き写したノンフィクションにはない独創性があることを清水作品から学んだ。清水作品の中には、私には内容がばかばかしくても、おもしろくなくても、それよりも、趣旨が一貫して伝わるように内容も形式も、しっかりした構築ができているかということに着目して読めるものがある。そして「技巧」としては最後の顛末に「落ち」を添えるところが望ましいらしい。このような不思議な小説家には初めて出会った。なんでこんなにばかばかしい話に付き合わないといけないのか、と感じながらそれがやめられなくなる。

怖い小説では米澤穂積も読んだ。書く人や編集する人からは、よい小説というのかもしれないが、私のような小説を読むことに長けていない者にとっては、硬くて組み立てが気になって疲れた。しかしなぜか、米澤作品には、自分も話を組み立てたくなる誘いがある。きっと小説家になりたい人たちは圧倒的にこの作家を支持するに違いない。「王とサーカス」（舞台はネパール）は、やっぱりすごい小説家だなと思った一番好きな作品だ。

こうして現在は村上龍、清水、米澤作品は増える一方だ。

地方の古書店に送ることができるこの日の収穫は、２０冊にも満たない。どれもとっておく理由が見つかるからだ。それでも順調な進捗だ。

本は買いなおしがいくらでもできるのに、「読んでも読むつもりでも、長年見慣れた本の背表紙が居間から消えたときの寂しさは予想を超えていたと」と、職場の友人が言った言葉には大きくうなずける。

これまではノンフィクションや惹かれる人物、国内外の深刻な課題などをもっと知りたいという目的で読むことが多かった。今でもそれは変わらないが、同時に思わず笑ってしまったり、ほどほどにこわがったり、なるほどと共感したり、短編小説を作者を問わず楽しめるようになった。

（了）

第十六話 　　失敗した話

ここは東京の新宿の高層ビルにある、Official Development Assistance=ODAを実施する日本の海外援助機関、知子の仕事場だ。設立されてようやく１年半たったばかりだった。

日本の海外援助（ODA）は、終戦後、195４年から技術協力を開始していたが、一般的には知られていなかた。１９７４年８月に、JICAが設立され、移住、技術協力、青年海外協力隊が新たに外務省の予算と企画の下に行われることになった。

海外援助機関というのは、世界各国を国内総生産（Gross Domestic Product＝GDP）の指数の低い国々を「開発途上国」として支援する仕事だ。６０名ぐらいの職員が新しい高層ビルの、仕切りのない広いワンフォロアーで４つの課に分かれて、技術協力の研修員受け入れの仕事をしていた。

三原知子は、研修３課で75年4月から働き始めた。一緒に仕事を始めた池永裕子と矢野和江とは、１か月もすると、気が合うというだけではなくお互いに助け合っていく必要性を切実に感じ始めた。

きょうも知子は裕子と和江が外勤から戻ってくるのを待っていた。午後3時を過ぎると、誰が入ってくるか、右斜め後方のドアの開閉が気になってくる。

Training Coordinator(トレーニング・コーディネーター、以下CDR) は研修3課に所属していた。CDRという職種は、日本のODAが1974年以前の10年間の試行錯誤から考え出したユニークな産物だった。研修期間中、必要な通訳と調整をする仕事と説明されていた。

外勤の仕事を終えたCDRにとって研修3課は、当日の報告と翌日以降の準備をする場所なのだが、わざわざまで新宿まで戻ってこなくても、電話で報告し、外勤先でも準備ができる場合が多い。なぜ直帰できないかというと、CDRとして登録されたとは言え、今月6月でようやく1年2か月を迎えたばかりで、まだ一人前のCDRとは言えない知子、裕子、和江の3人は、T課長から、午後5時までに事務所に戻れる場合は、事務所まで来るように言われているからだ。もっともそれ以上に、そこにいる仲間内の「反省会」や「情報交換」のため、事務所に寄るのはその日の楽しみでもあった。

裕子と和江が同じ学年、知子は二人の４歳年上で全員20代だった。現在の用語ではフリーランス、つまり必要な期間、契約で通訳と研修現場で連絡・調整の仕事をするCDRは、4月は登録人数が50名から次第に増えてたちまち100名近くになっていた。総じて若く20代から30代だったから、生活の安定のためには契約ではなく、職員試験を受けるように定期的にT課長から推奨された。しかしCDRのほとんどが男女問わず、事務職にはなりたがらなかった。

農林省の海外研修室から戻って来た矢野和江は、だいぶ沈んだ様子で、いつもの快活さがなかった。人懐っこい笑顔で周囲を明るくする人なのに、知子は思わず「どうしたの？」と真っ先に聞いてしまった。労働省での講義通訳を終えて裕子が戻り、3人揃ったところで和江が語り始めた。

和江は今、農林省が企画・実施している3か月間の「農業普及」を研修3課の佐山CDRと2名で担当している。15人の東南アジア、南西アジア、南米、アフリカからの農業省の農業普及を専門とする行政官の研修に同行し、通訳と業務調整をしているのだが、明日からの自分の仕事に自信がなくなったという。あと残っている研修期間、1か月半の間に、3回の地方での視察や実地研修が続く。今日、和江がフィリピンからの研修員、E氏にとった対応が彼をひどく傷つけたと、本人から言われたそうだ。彼が大変優秀で常識的な人物だと考えてきただけに、どうすればよかったのか、考えが堂々巡りするというのだ。

「終業時刻まであと30分ね」途中、和江は壁の時計に目を移すと同時に、顛末を続けた。

「今日月曜日の午前の講義が終わり、ブレイクの時、気が付くとパキスタン、アフガニスタン、バングラデシュ、マレーシアなど数人の研修員が、E氏の背中を見てクスクス笑っている。おしゃれなE氏は糊とアイロンで整えたモスグリーンのワイシャツを着ていたが、背中に「dangerous」と書かれたA４サイズの紙がセロテープで貼られていた」。それを見て和江には２つの方法があった。危険だなどと書かれていて本人は知らないのだから、それを取り除くように行動する。もう一つは週末があって研修員たちだけの余暇時間もあり、その延長での冗談かもしれないから、和江はノータッチでよい。

実際に起こったことと言えば、その日のうちに背中の張り紙に気づいたE氏は和江に「あなたはトレーニング・コーディネーターだ。私が侮辱を受けているときに、一緒になって笑っていないでそれを教えてくれるべきだ」と和江のところに来て、彼女に真剣に抗議したそうだ。一人前のCDRになろうとしている和江であるが、そこまで仕事として求められるのだろうか？

聞いていて明らかに良好な人間関係の研修仲間の遊びだからほっておく、というのはよいかもしれないと私も思った。裕子は「貼った側の研修員たちと一緒に見ていたので、ノータッチと言ってもE氏にとってはCDRの和江も一緒に笑っているように映ったかもしれない」とかなり率直に言った。

なるほど堂々巡りになる、「どうすればよかった」と言い切れない出来事だ。

事の是非よりももう少し堂々巡りに付き合おうと、場所を近くの喫茶店に移した。

彼女たち３人の話し合いの結果はこのようになった。E氏が和江に求めた対応は明らかに、CDRの仕事の範囲ではない。

想像できることに、週末、グループで買い物に出かけて、イスラムではない、フィリピンのE氏はお店の女性の店員さんに気軽に話ができる、あるいはすれ違った女学生たちに「こんにちは！」と挨拶したとかで、イスラムの男性には、そのような振る舞いは決してできないことが、内心ややうらやましかった。E氏を「危険人物だ」と冗談を言い合って、背中に貼り紙したという程度のことだろう。私たちは勝手に想像を膨らませた。E氏は仲間がそのような紙を背中に貼ったこと自体を怒っているのではなく、和江が仕事として、彼らに注意し、紙を剥がすのが当然だと言っているのだが、これはもっともなことだ。ここで、それはCDRの仕事か否か、CDRの仕事の範囲をまた蒸し返した。むずかしいことは、あきらかに和江の言うとおり、CDRは研修員間の冗談や戯れ事には距離をおいてもかまわない。しかしこれは研修の現場、CDRの仕事場の講義室の中での出来事だ。残念ながら、どうすべきだったかはそれ以上進展しなかったが、和江にとっては２人に話すことで気持ちが少しは晴れただろうと、知子と裕子はやや安心した。

そして２か月後、彼女たちは新宿の研修３課で久しぶりに顔を合わせた。和江が意気消沈していた日から１か月半後になんとか研修は成功裡に終わり、１５人の研修員は全員、研修修了証書を手にそれぞれの国に帰って行った。

“事件”から１か月半の間、E氏は和江に必要最小限の言葉しか言わなかったそうだ。そしていよいよ研修が修了し、帰国する前日、E氏は和江のところに来て、「これはお世話になった方に渡そうと、研修中にフィリピンから取り寄せたおみやげです」と言って、和江に上品なベージュの綿のブラウスを手渡した。

裕子が和江の様子をゆっくり窺いながらも、いつもの飾り気ない口調で言った。「たしかにE氏には侮辱を受けたという事件だったかもしれないけれど、今少し落ち着いて振り返ると、E氏は、好ましいと思っていた人、つまり和江に裏切られたって、寂しかったってことだったんじゃない？」

知子も「たしかに！私たちCDRの仕事の範囲か否か、イスラムの人たちの規範とか、原因を拡げたけれど、裕子の言うように、何回反省しても、もう取り返しのつかない出来事を悔いるより、素敵な思い出だったと、切り替える方がいいわね」と加勢した。

こうして彼女らは、「今も悔いている失敗」を「もう一度会いたい人」というポジティブな結論に導くことができたのだった。

了

第十七話   　腹が立った話

三原知子は、１９７４年１２月から翌年１月まで青年海外協力隊（JOCV）のTV番組をつくるレポーターをしたことから、設立間もない海外援助機関、JICAの総務部広報課に出入りをしていた。国内での準備、海外での収録、JOCVへの報告が終わり帰りかけたとき、総務部のM部長が、「三原さん、今研修事業部というところで、人手が足りなくて、てんてこ舞いしているらしい。ちょっとどのような仕事をしているか、T課長のところに行って聞いてみたらどうですか？」と言われた。たしかに知子はきょうでテレビ局の仕事は終わったとは言ったが、ここで仕事をしたいとは言ったこともないし、考えてもいなかった。しかしせっかくの機会なので、T課長を訪ねると１週間後に英語での質疑応答の簡単な試験と、日本語の面接を受けてくださいという話が待っていた。仕事に人手が追い付かない切迫した様子が窺えて、その流れに断る理由も見当たらなかった。知子にとって唯一の救いは契約で仕事ができることで、いったんここで仕事を始めたからと言って、仕事は契約ごとに続けたり、見合わせたりできる点だった。ところが一度仕事を始めたら、実際にはそのようなわけにはいかないとあとになってわかったのだが、その時はT課長に言われたとおり、知子はごく簡単な試験と面接を受け、ともかく仕事を引き受けることにした。

ここから約半世紀にわたる知子とJICA事業はじめ国際交流の現場との付かず離れずの付き合いが始まった。１９７５年４月のことだった。

知子の職場は、「研修員受け入れ」という相手国が要請してくる研修テーマについて、研修員が研修の目的を達成するための実施を行う部署、研修事業部のなかにある研修三課だった。研修現場に常駐し、通訳や連絡・調整を行う研修監理員（CDR）が中核をしめていた。３年目を迎えて、知子はCDRの仕事と、それがないときは内勤の事務をやってもらいたいと、T課長とH補佐から言われていた。

研修三課は、海外での留学や滞在経験が豊富な人たちが、CDRとして仕事をし、その約７割は２０代から４０代の女性で、知的で献身的な仕事ぶりだった。自分の考えを持って、それを組織内で活かしながら仕事をする彼女たちに、知子は大いに魅了され刺激を受けて過ごしてきた。

ある日、６０名ぐらいが常駐している研修事業部の部長のところに、外部からの憤りの電話が転送されてきた。千葉県内の、日頃海外からの訪問団に協力的な小学校の校長からで、「当校は、イスラムの方々への接遇には豊富な経験があり、これまでも問題なく交流の時間を過ごした。ところがきょうの訪問では同行してきたCDRの人の言動が、その楽しい時間を台無しにした」という話だった。

７０年代から８０年代前半にかけて、日本国内では、民間企業中心にインドネシアやマレーシア、中東の産油国などに接する関係者はイスラムの習慣や対応について学び、豊富な経験もあった。イスラム地域との関わりは深まり、外務省の受け入れ年間５０００人の時点でのイスラム圏からの来日研修員はその三分の２を占めていた。人数的には当時の研修の主流だった農業や職業訓練の分野に限れば、通常では各研修グループの半数から7割がアジア、アフリカ、中東のイスラム研修員で占められていた。イスラムに関する問題が生じるとしたら、知子が見聞したことは、たいてい日本側の誤解がその原因だった。日本ではイスラムは「豚肉を食べない」と言う知識は浸透していたが、豚肉を避けるだけではなく、食べる動物や食肉は、イスラムの規定で定める範囲と屠殺方法があり、それ以外の方法で食材となった肉はもちろんそれらから派生する調味料やスープ、お菓子などすべて口にできない。これを「ハラール」というのだ。イスラムの研修員は、ハラールはイスラム圏で過ごさないと、知識は聞いてもまず理解できないで当然と考えていたようだ。イスラムの人々は今日では、安心して海外で過ごせるようだが、日本はイスラム社会がない仏教国だと学んでいた７０年代、８０年代の研修員にとっては日本では、「ハラール」についての理解や対応を期待できず、自分の護身として、海外滞在中は「菜食主義者」だと申請する人たちが多かった。それでもスープや味付けなど考えると飢え死にしてしまうため、海外滞在中はそれぞれある程度割り切って過ごしていた。それができない人は、日本には来られなかっただろう。

T課長は部長から電話の内容を聞き、時々生じる日本でのイスラム理解の状況をすでに何度か経験していたようで、CDRでもある知子に、学校訪問に同行した担当の福永CDRから話を聞いてから、日頃から国際協力の仕事に理解が深く協力的なK小学校を訪ねるように言った。１９７０年代半ばの時点では、イスラム研修員に日々接する研修３課でも、イスラムに関する知識や経験は乏しく、イスラム研修員の昼間のお祈りの時間の確保とともに、「豚肉が食べられない人々」の日々の食事のメニューを依頼し確認することで、十分な配慮をしているという自負があった。

事務所に戻ってきた福永さんに「お疲れ様でした！」と言うと、彼女は校長からの不満の電話については校長と同じような腹立たしさを感じていたに違いないが、気を取り直して話し始めた。「あのね、三原さん。K小学校では給食の時間を生徒と一緒に過ごせるように準備してくれて、日本の給食が生徒や保護者にとってよいところ、学校が留意している点などよく説明してくれて研修員の食事１２人分と、私の食事まで用意してくれたの。あいにく豚肉も入っているスープ付きの献立の日で、この計画は変えられなかったため、１２人分のスープから豚肉をお箸で全部取り除いて替わりに野菜を増やしたというところまで配慮してくださった」。深く息を吸い込むと福永さんは続けた「８人がイスラムだったけれど２、３人は手をつけるしぐさもできなかったのでそれでは学校に悪いかと思って、豚肉を取り除くだけでは食べられないので野菜を残しても気を悪くなさらないでください」と言っただけなのよ。研修員たちはこのようなことは日本に来たら日本の生活では当たり前のことなので、学校側の好意や配慮は十分に受け止めたし帰りも誰も不満に思っているイスラムの研修員はいなかったのよ。それどころか普通はできない経験だった。子供たちがかわいかった」「学校訪問は楽しかったんですよ。給食について私が余計なことを言わなければよかった。つまり豚肉とアルコールそのものだけでなく由来する調味料とかスープとか口にしない人もいる。その人たちのイスラムとの関わりによるけれど原則はそういうことなんですよ。豚肉を食べない人たちではなく、それを「ハラール」というのだけど。イスラムだからってそれを非イスラム国の日本に求めて来日しているわけではないので。日本の日常で、調味料でも、クッキーでもハラールは配慮されていないので、日本側ができるだけの配慮していることが伝わればいい。一緒に子供たちと食べるという時間が貴重なのですね」

福永さんは、フランスでの生活が長く、フランスのイスラム社会に接していた。知子は、７０年代に彼女から初めて「ハラール」という言葉を教えてもらった。

知子は福永さんの説明を聞きながら、K小学校には、福永さんと一緒に行って校長先生にも直接話してもらおうと思った。福永さんの説明は正しかったのだ。正しい説明が人を説得できるとは限らないから、イスラムについて日本は精一杯のところで配慮している、それをイスラムの人々はよくわかっているということが重要なのだろう。

それから２日後、福永さんと訪ねたK小学校では、女性の校長先生が白地に小さな黒のドット模様の素敵なブラウスとそれに似合うブルーのスーツ姿で待っていてくださった。前半は校長が、学校としては一番自信を持って対応していた給食のところで、福永さんから指摘があったことが想定外だったと言われた。「当校の給食主任（給食調理員）は、フランスでシェフになるため本場の料理を勉強して、インターナショナルな知識を持っているので、当校の給食にはおもてなし上は問題ないと考えていた」と。そこまでは姿勢を崩さなかった校長だったが、後半福永さんの話を聞くと、「それでは、給食主任は限界を知りながら、これまで学校に合わせて、できる限度までやってくれてきたということですね」とつぶやかれた。福永さんはこの校長先生は、話をよく聞いて理解をしてくれると直感したらしく、自分がほどほどに切り上げられなかった理由を説明したのだ。それで校長は、顛末が腑に落ちたようだった。

K小学校からの帰り道、福永さんが、海外からの訪問団を継続的に受け入れてくれる学校や企業では、女性のイニシアティブやサポートなどの活躍が目立つようになったと言った。日本の国際協力や交流の仕事の現場では、福永さんが目にした範囲にあっては、欧米ではパワハラやセクハラだと訴えられる、自覚のない男性の言動がまだまだ見受けられた。それに声をあげられない女性たちを見て絶望的になっていたけれど、たった１～２年の間に、実力ある女性たちが力強く台頭してきているのは嬉しい、と。

国際協力や交流は女性が得意と言われるのは、語学ができるから、異文化を経験しているからと、褒められたり重宝がられて使われるだけの時代は過ぎつつあったのだ。

国際交流の側面というのは、どの専門分野や業界にもあるだろうが、現場を経験してきた女性が、言われたことだけでなく、企画を主体的にできるようになるのは、時間の問題だと、彼女は言った。知子より10年以上、国内外での通訳や調整業務の経験がある福永さんは、国がJICAを設立して、国際協力の体制を整えたことで、全国の各産業の現場、それは農業、漁業、土木、機械、大学や教育機関など様々であるが、そこでの変化を感じ取っていると言う。問題解決は海外と接点があると、国内だけで考えているより解決のヒントを得られると、知子も自分の体験を振り返った。

この日、福永さんとともに知子はK小学校の校長の理解を得ただけでなく、福永さんからはイスラムに関する深い知識、仕事の前線で起きている女性CDRの奮闘の現実を聞けた充足感で、学校訪問を終えることができた。

（了）

第十八話　おいしいもの　－　スウィーツ

私にとっておいしいものは、食べなれているもの。ただ、初めて食べるものでも、甘いものは、だいたい全部おいしいと感じる方だ。

したがって、国内はもちろん海外で食べなれないものに食がすすまないときは、その地域のフルーツやお菓子と、一緒にコーヒーやお茶があれば元気になって、何日でも過ごせる気になる。初めてのお菓子でも、どんなに甘ったるい味でも気分が落ち着く。

日頃目にする果物で苦手なものはない。思い付く順に並べると、イチジク、スイカ、渋柿を渋抜きした西条柿、ドラゴンフルーツ、できれば北海道産のメロン。お菓子はなんでも好き。和菓子のとくにあんこと羊かん、チーズケーキ、バニラのアイスクリームなど。ケーキやチョコレートはデリケートで複雑な芸術品よりシンプルな方が好きだ。ちょっと気難しく書いたが実は甘いものには注文や条件はない。お茶の時間や食後のデザートと称して甘いものは、毎日常食化している。

好きなだけにその食べ方に苦労もある。質も量も気を付けないといけないのではないかと、時々は考えた。

いくら体が求めると言っても、甘いものばかり食べ続けると健康を害するという知識はあるので、人口甘味料の名前をいくつか覚えてそれらは避けて、低糖のクッキーやケーキにこだわった時期があった。取り寄せたり、人に勧めたりはしたが、自分が続けるのは無理だった。なかには十分甘みもおいしさも感じる低糖ケーキや精製糖を避けるお菓子もあったが、不便なところや遠方からの入手に手間がかかり、その割にはど食べなれない味で、どの程度の利点があるのか、記載されている数字などでは私にはわからない。健康も大切だが、おいしくなければわざわざ注文はしない。ケーキを自分で作れる人はうらやましい。動画で作り方を見ると、砂糖の分量を好みに合わせ減量し、豆乳を使ったり、シナモンなど加えて、家族が好きなフルーツで飾ったり自由自在だ。ケーキを自分でつくることは、甘いもののためには苦労をいとわない私は、まだあきらめられない。

質量ともに甘味を改善するために今、自分でできることは何か。私にできることを教えてくれたお料理の達人には感謝している。Simple and perfect!　とはこのことだ。牛乳とゼラチンをまぜるだけの簡素なプリンを、いくつか作り置きしておくこと。家にお菓子も何も甘いものがない日というのは往々にしてあるものだ。牛乳のプリンはそのままではおいしいとまでは言えないが、白い砂糖に精製される前のサトウキビの粗糖というのをパラパラと、あえて計量スプーンでもったいぶってふりかける。すると比類ない素朴さが、私には案外あきずにおいしい。面倒だとおもわなければ、ヨーグルトやフルーツなどもトッピングできるが、そもそもヨーグルトやフルーツなどが家にあれば、それらを直接食べるのでこのプリンの出番はあまりない。

もう一手は、カボチャや、りんごや梨など果物を好みの大きさに切って冷蔵庫に小分けしておく。１日か２日ぐらいのうちに、その都度野菜クッカーなどで電子レンジで数分ゆでる。それだけで北海道や長野のカボチャから甘みが引き出され、あたたかいりんごなど果物もあきないでいただける。それ以上私は何も手を加えない。正確には、加えたくても術がない。

友人に日頃、家に何も甘いものがないとき、果物やお菓子をきらした時の上述の過ごし方を言うと、「それは栄養的にもダイエットにも理想的なおやつで、だから甘いものが好きな割に、あなたは太らないのね」と言われた。太らないのは、私は小麦粉のパンよりお米のごはんを好むからだろうと内心は思うが太らないためにお米を食べているわけではない。残念なことに年齢とともに太れなくなるのだが、彼女は褒めてくれたつもりなのだろう。

おししいものには出会っているのだが、好物のいただき方のバランスは、お酒で苦労している人と同様に、適量がむずかしい。これを自然体で克服するために、それまでは懲りずに、甘党の友だちと、あまりむずかしいことをあまり言わないで、お茶の時間は大切に続けることにしよう。

（了）

第十九話　気がかりが尽きない散歩道

千葉県八千代市と船橋方面から、東京の日本橋や大手町まで直通でつながった東葉高速鉄道の、「飯山満駅」。

この駅が私の自宅にとって徒歩数分の最寄り駅になる予定だった。しかし駅の施工が決まってからも鉄道会社と土地所有者との話し合いがつかず、結局、駅は私たちの住宅街からだんだん遠くなり、辺鄙なところに追いやられてしまった、と私は聞いていた。25年前に開業した駅にもかかわらず、今も通勤、通学、帰宅の時間帯の混雑を除けば、やや閑散としている印象がある。

「飯山満駅は何処になるのか」は少なくとも数年間は、私たち住人にとっては無関心ではいられなかった。あとで聞いたところでは駅の施工計画が決まってからも、２０数年間、複数の競合他社の強硬な反対があったうえ、さらに膨大な数の地権者との争いが続き「静かな成田闘争」と言われたほどだそうだ。飯山満駅周辺だけではなく東葉高速鉄道沿線にも農家の田畑よりも、各駅周辺に新しい賃貸マンションや住宅地が拡がって、農業の風景は一掃されてしまいそうな勢いだ。自宅からは遠くになってしまった幻の最寄り駅、飯山満駅は今やどこにあってもさして不便は感じないが、空が見えないほどうっそうとした雑木林や竹林、そこに生息していた野鳥の賑やかなさえずりが消えていく光景の方がよほど気がかりになった。

通勤には使えなかったが、散歩道としては快適な飯山満駅までをその日も歩いていた。雑木林を過ぎて見通しの悪い一角を用心深く歩いているとその隅に、前回通ったときはなかった、通常は神社に置かれているはずの立派な風貌の狛犬が一対、放り出されていたのだ。見上げると、広大な高台の敷地にクレーン車が入って工事が始まっている。気になって毎日その前を通ってみたが、通勤時間帯ではないせいか通行する人はまばらで、高台にいるはずの工事関係者の姿は下からは見えない。狛犬を発見してから数週間たったある日、数人の工事の担当者らしき一団が歩いていたので、この狛犬はどうする予定なのかと丁寧に聞いた。工事を請け負っているだけで、全体の計画は知らない人たちのようだったが、一人が説明してくれた。「今請け負っている工事は、目の前のFT学園にも土地を譲ったこのあたりの地主さんで、工事中の高台にその人がこの地域の人たちと建てた神社があり、狛犬はその神社の狛犬だと思う」。見れば２つ狛犬の台座には寄付した人たちの氏名がびっしり彫られている。「うちの爺さんの名前がある！」と一人が嬉しそうに言った。そういう地元の関係者がいれば安心だとほっとした。いろいろわかったことはあったが、私の関心は狛犬をここに放置していていいのか、という一点だったので、「狛犬は代々土地の人たちの神社を護ってきたのだから、これからも大事に扱ってほしい」と何の関わりもない私が、突然、偉そうに言うのは自分でも可笑しかったがしかたがない。一番地元に精通していそうな人に頼んでおいたので、これで私の心配ごとは幾分軽減された。

散歩のたびに一対の風格のある狛犬の、正面を向いてお互いが見合っている立派な姿は変わらず、私もしばらくはやや穏やかな気持ちで過ごせた。

ところが放置されて１か月半経ったころ、その狛犬の背後に、「不法投棄禁止」の赤い文字で書かれた大きな掲示のボードが、立てかけてあった。これまではこの場所に隣接する雑木林や竹林に粗大ごみや電気用品を置いていく人がいるのでよく見かけた警告だ。神社の狛犬一対を廃棄のために此処に置いたと本気で考えた人がいるのだろうか？悪い冗談で雑木林の中から掲示板を拾って持ってきたのだろうか？

そろそろ何とかしようにも、では私は何をすればよいか迷うところで、傍観しかできない。置いてあること自体が段取りの一つかもしれないし、誰に話をしてよいか相手がいない。神社があったところの地主さんが、先々計画しているのが普通だと思われる。

この私の迷いが吹き飛んだのは、それから１週間後、狛犬の脇を通った時だ。正面を向いて置かれていた狛犬が一つは後ろ向きに、もう一つは斜めになって無造作に動かされていた。それよりも斜めに置かれた狛犬の額全体が、白く擦り傷のように削られているように見えた。このような痛ましい狛犬を見るのは胸が痛むので、もうこの道は通れないと、あきらめかけた。

それでも一日、二日考えてから、次の日お昼近くに船橋市役所の代表番号に電話した。担当窓口というより関心を持ってくれる確率が高いのは、時々近所であちこちボランティアの人たちと縄文土器を発掘している部署だろうと勝手に想像し、「飯山満町で土器を掘っている部署」にと言った。

「教育委員会におつなぎします」と言われて待つ間もなく応対に出た電話口の職員に、私がこれまでの概略を説明した。二人の職員とそれぞれ話した結果、二人とも話の内容は十分理解し、ある程度は共感してくださった、と私は思った。説明のあとに、「１．高校もそばにあり、生徒にも目に付く道沿いに、神社の狛犬を放り出しておくのは常識的ではないです。２．私は何か特定の宗教の信者ではありません。３．経費の問題もあってどこかに移動できないのであれば募金にも協力します」と付け加えた。

この3つの補足になかにはどうでもよいことがあったのだろう。あまりにもどうでもよいことだったのだろう、電話口で相手からクスリと笑いがもれたように聞こえたが、ようやく聞いてもらえる相手を見つけて、自分の言葉が止まらない。電話口の職員は、きょうはちょうど午後から外勤があるので、ついでに見てきますと言われた。問題の工事中の現場の隣にある「ゆるぎ地蔵」というのは、船橋市が文化財保護で関わっていることを思い出し、場所もわかりやすく伝えることができた。その時点で私の気がかりはほぼ解消した。

その日は散歩も狛犬もすっかり忘れて夕方になったころ、教育委員会の同じ職員の方から電話があり、ついでの用もあり、その場所に寄り狛犬を見てさらに話を聞いたとのこと。今、進行中の工事で新しい神社も作るので、狛犬も元どおり神社に設置される予定であること。狛犬の額の擦り傷は修復可能だと思います、と予期していなかった丁寧な連絡をいただいた。職員の方の声も明るく響き、私はようやく同志を得たように嬉しかった。

こうして一転して気分が申し分なく晴れた私であるが、その後３日経過した今も、まだ狛犬のところには行っていない。

あの狛犬たちにどのような変化が起こっているか、知りたい気持ちは高まる一方で、実際に目にすることが怖くなってしまった。計画はともかく、本当にあの道端の現場で狛犬は安全なのだろうか？

この成り行きは、「新しい神社で、狛犬と再会できることも夢ではなくなった」と続きますように。

了

第二十話　親友の近況

高校、大学、職場とほぼ毎日のように一緒に過ごしてきた友人、裕子さんとは、前後して職場を離れた後、お互いの家は遠くはないのだが、ほとんど会えない境遇になってしまった。四国八十八所を、一緒にゆっくり歩こうと話したこともあった。もともと登山が趣味の裕子さんの健脚についていけるかは、時折不安になったことは、たしかにあったが、実現は彼女がいつもどおり計画してくれれば大丈夫だ。スキーもお茶も音楽会に通うことも彼女がいたから導かれるように続けてきた。

すでにいない私の母と叔母は、裕子さんと彫金を長年続けていた。「あんなによいお嬢さんはいない」という母や叔母の言葉が、今も私の耳もとで聞こえる。

ほとんど会えなくなった彼女のことを考えると、「本当にたいした人だ、人生をやり直したいとは決して思いはしなかったが、もしできるのであれば、裕子さんをお手本にもう一度やってみたい」と、考えられなかったことが頭に浮かぶほどだ。

あの人は、私には絶対無理であるが、何かを始めるときには慎重に考えて、いったん始めると、周到に準備してきちんとやり遂げる。途中でやめたことを見たことがない。人に対してもいつも肯定的で誠実だ。「あなたの親友は裕子さんね！」と自他ともに疑わなかった親しい友が、こんなに得難い立派な人だったとは気が付くのが遅かった。

彼女は、私より数年早めに職場を去り、今は９０歳に近いご両親と暮らしている。おそらく日常は忙しく過ごしているに違いないが、時間を見つけ出して趣味の登山を里山歩きに変えて、さらに定期的に音楽鑑賞を続けているらしい。そこには私との時間は入り込む余地はないのだろう。私が連絡しなければ私は放って置かれても仕方ない。

何より裕子さんが羨ましいのは、自然の成り行きのように職場から早期に退職して、ご両親との生活を彼女が選んだことだ。

まさかこのまま疎遠になるとは思えないのだが、他の多くの友人と同じように、お互いに元気でいるかを確かめ合うかのような、年に一度の年賀状の交換ということになるかもしれない。

朝と晩に、規則正しく私のところに来るのは、キジトラ猫だ。もう３年以上、日に２回はやって来る。２，３日前の雪の日も、朝戸を開けると、「やぁやぁ、遅いぞ！」とわめきながら入ってきた。

このキジトラが今の私の一番近くにいる仲間だ。犬や猫を自分の仲間だと思って暮らせることで、なんど意気消沈しても、こんどもなんとか復活できそうだ。

了

Episode １ Surprising encounter

The National Research Institute of Police Science (Kakeiken), which has now been relocated to Kashiwa City, Chiba Prefecture for more than 20 years was formerly based in Sanbancho, Chiyoda-ku, Tokyo near Chidorigafuchi. The former site of Kakeiken in Sanbancho now seems to have been turned into a luxury rental apartment building.

It was a couple of years after I graduated from university in 1970. A college friend of mine was working part-time at Kakeiken three times a week, but found a full-time job, and as such I was asked to fill in for her part-time job. The National Research Institute of Police Science, which I had never heard of before, was not a private think tank, as I had initially assumed, but an Institute of the National Police Agency, commonly called as Kakeiken.

As an assistant, all I had to do was paperwork I was told to do. At the time, I was still fresh out of college as I had quit working for a bank after six months and had returned to university to help out as a researcher for the laboratory of American studies as well as an assistant for the faculty of General Education. At the time, I did not have fixed career goals and I was also not getting ready for graduate school. I kept myself physically busy by taking on different jobs, but mentally, I felt I had too much going on in my life. At the campus library, I read firsthand materials thanks to the translations available at the time. I read diaries and letters of German, French and Russian writers and artists in Japanese.

The university reform around 1970 and the movement against the Vietnam War were partially ongoing in our American studies laboratory. One could say that each of us had to face with the dilemma of following the traditional path of graduation and then getting a job as if nothing had happened or put off the decision by taking moratorium or even use it as an excuse to indulge in a life of idleness.

I did not bother to research what kind of a place Kakeiken is and what kind of work I could do, but accepted the job casually, thinking that since I was asked to do it, I would do it. For the next four years, I worked at the Kakeiken regularly three days a week, reducing the workload I had at the university. Obviously, I was not a researcher, but I was closely involved with science specialists, and looking back, it was the most enjoyable job I have ever had.

The “voice laboratory” of Kakeiken was a large room, where I spent my time. The laboratory was occupied with equipment, and the overall size and shape of the room remained unknown to me until the end, since I had no business walking around the room. “What is voice? We are studying and researching language and voiceprints,” said Deputy Director Suzuki. “We are part of the National Police Agency, and we are asked by police departments all over the country to investigate unsolved voice-related cases.”

Episode ２　The challenge～Swimming Freestyle study

Every summer vacation, my aunt took me to her and my mother’s family home in Murozumi, Yamaguchi Prefecture. At the time around 1950, my aunt must have been only 24 or 25 years old, and it was a big trip with her elder sister’s children; three elementary school kids. It was a difficult task to bring along the children from Tokyo Station on the Sanyo Main Line to Tokuyama in Yamaguchi Prefecture each time, as the train was crowded, and the aisles were not easy to walk through.

During those days there was no delivery service and passengers carried as much luggage as they could, which overflowed the upper cargo bed of the train and whatever that couldn’t fit had to be placed in the aisles as well. For items that could not be carried as hand luggage, there was the “chikki” method of sending them separately as freight. One could go to the nearest station designated to send or receive baggage on the way to and from the trip. As such, my mother and aunt used to say, “We have to go to Shiodome station.”

Although it may have been convenient at the time, “chikki” were transported to Shiodome station. From that station, baggage had to be carried to respective destinations by the owners themselves. Privately owned cars were not widely available to the average household, and cabs were even more extravagant. Many people probably had to manage their luggage by bus, train, or streetcar, a transportation method used at the time for short distances. I had no idea how hard it was for adults, so I spent from morning to night at my uncle’s house playing, socializing and doings things I could not do in Tokyo.

Behind the house was a white sandy beach and the shallow Seto Inland Sea stretched endlessly. Once a day, I swam in the sea, a five-minute walk from our house, with my cousins and childhood friends in the neighborhood. Not only my siblings and I, but also small kids in the neighborhood who couldn’t swim yet joined us before we knew it. Our relatives, neighbors, and strangers watched us and taught us how to move our heads, arms and legs while we float in the water.

Soon I was learning the breaststroke, and my brothers were learning freestyle swimming, and the coaches gathered on the beach were saying, “Yeah, that’s it. You can swim now!” I was very happy to be able to swim, and that’s how we spent one summer. As an adult when I entered the workforce, I swam at various pools after work. As I made time for swimming even during my time in Sapporo and on business trips, I came to realize my lack of confidence in my front crawl.

Swimming lessons didn’t seem to have an enjoyable atmosphere, but it was the only way to be taught. I told the swimming school what was bothering me: “I can do breaststrokes and backstrokes with ease, but I can’t get my crawl to work.” There was a trained coach there, and the classes were too high level for me as if I wanted to be a professional swimmer or to shorten my lap time. The coach saw how I swam and taught me by explaining the theory. He carefully explained and showed how to rotate my shoulders, put my hands in the water at a more central angle to my stomach, take out my hands from the water with the correct elbow height, kick my feet, and other things I do unconsciously on a daily basis that are rational. The points stuck in my head, I thought.

It was rare that I went to the pool with friends, but one weekend we decided to go to the Jingu Pool, which was a few minutes’ walk from Shinanomachi and inexpensive to use. It was somewhat crowded as it was popular in the 1970s for its breath of fresh air and panoramic view of the sky, clouds, and trees. About one-third of the visitors didn’t bother to enter the pool at all but were sitting by the side instead. The pool was a traditional size, 25 meters long and 9 meters wide, just like an elementary school pool.

After a while, I started swimming with a crawl. Remembering the words of the coach from my last swim class, I added some speed and tried to hold a steady pace. As I touched the pool wall, someone approached me and asked, “Are you okay?” Obviously, something negative had happened. “Was there something wrong with my swim?” I asked. And the person replied, “I wondered if you were okay as you were sinking.” I knew it! I thought to myself. Today, in particular, I felt like my body was moving up and down. Even in those days, when I was a very curious person, I didn’t ask him right then and there how I could improve my swimming. Besides, it would have been odd to ask this stranger for further input.

The person who approached me was an assistant lifeguard who walked along the edge of the pool and kept an eye on what was going on at the pool. I was one step away from being rescued when the lifeguard’s assistant jumped into the pool. I was so shocked to learn this that my body was about to crumble into pieces.

The friend who came with me didn’t happen to see me in that scene. He was swimming around comfortably. “I can’t crawl,” I said in a somber voice, “I don’t know how to do it.” He proudly replied, “My crawl is not cool, but I can swim faster than most people.” This is a person who enjoys his own style of swimming the most.

If I had swum a lot, I would have naturally gotten better, but looking back, I spent more time thinking than swimming. Just as in walking, where our hands and feet walk together when we’re nervous, I tried to remember how to swim the way I learned in class, but as a result, my arms and legs became rigid. And now that I have figured out the reason, I felt I could put the challenge to rest, and since then I have taken a long break from swimming and from my “research on not being able to crawl”.

End.

Episode ３ My Hometown ～ Settlements of kinship

I grew up hearing the place name “Onoze.” In Chinese characters, “魚” is written for “fish” and “瀬” is written for “shallows of sea or river” and together pronounced, “魚瀬” = “onoze,” or “unoze” depending on the person. In Izumo dialect, it is said to be pronounced between “o” and “u”. Relatives and acquaintances came to Tokyo quite often to visit my father, who was born in Onoze. They had dinner together with us, stayed over, or stopped by on the way home from a business trip to have a lively conversation. We managed to make do with a small house, and when people came to visit, my father was in a pleasant mood, and my mother also enjoyed talking with them, partly because my aunt helped her with the housework.

Most of the gifts from visitors from Onoze and Matsue were either iwa-nori (seaweed) or large, very heavy sweets from Matsue. I was always disappointed by the thick bundles of iwa-nori, which looked and tasted different from the seaweed in Tokyo. I later learned that iwa-nori is hand-picked from rocks stuck in the cold sea before being processed, for which I felt sorry. Matsue’s sweets were Yakumo, Wakakusa, and Yamakawa, which I also later learned were all premium sweets to have with matcha (powdered green tea), but as an elementary school student at the time, they were simply too sweet for my liking. Even though Onoze was my father’s hometown, it was a distant world to me.

When I became a high school student, I went to Onoze for the first time to visit the graves of my ancestors. We walked along the cliff for about 30 minutes from my uncle’s house. We carried incense, flowers, and other necessities to the graves, but along the way we were surrounded by rape blossoms, and the view was unimaginably spectacular, with just the ultramarine color sea and rape blossoms filling the entire field of vision. From there, when I moved my eyes to the residential areas, I noticed they are all built on rocks and cliffs, with virtually no flat land or farmland in sight, and the ocean lying lazily below each house. I was convinced that this was the reason why relatives in Onoze, who were returning from a petition to Tokyo, were happy that Onoze had finally been designated as a [landslide area] and that they could rebuild their houses in a safer location above.

Before it was mergered with Matsue City, Onoze was a village of about 500 people in Ono Village, Yatsuka County, attached to a cliff by the sea, and all the households made their living by fishing. There were only three surnames, Shimizu, Muramatsu, and Yamano, or so it seemed, and as such people called each other by their first names rather than surnames. Those who were confused could be recognized by their trade name, making it a district of relatives who were connected somehow.

Onoze is about 200~300 km away from Korea, and at the time there seemed to be fishery areas where Japanese and Korean fishery boats and vessels came and go. My grandmother’s family had been the owner of the fishing nets and boats in Onoze over generations. After getting married my grandfather succeeded the family’s fishery business successfully as the owner. My father was also expected to become a fisherman, but according to my aunts, he liked studying and excelled at Matsue High School, so the schoolteachers asked my grandparents to send him to Tokyo for higher education. It seems that my grandparents were happy to spend money and receive higher education instead of letting him help with the family’s fishing business, which made them feel ashamed publicly in the eyes of others, even though they were happy inside. This was a time where, not succeeding the family business and spending on education was deemed unfavorably.

My father’s three elder sisters were especially fond of my father, the youngest of the five, and gave him money whenever they saw him, and encouraged him to pursue his dreams. My aunts thought that as long as one did not leave the abundant sea of Onoze, one could easily enjoy a good life, and this is what propelled them to help my father. Even in the 1970s, when I visited Onoze, the people were usually modest, but when it came to gifts and entertainment, they were extravagant. Whenever I went to Onoze, my father’s sisters (my aunts and their husbands) would give me money in my high school and college days saying, “Welcome back!” I was surprised and happy because it was a lot of money for me as a student at that time. I thought to myself that this was how my father had received his allowance.

Several of my relatives owned mother ships and were closely connected to each other as guarantors for each other’s vessels. Quite a few households in Onoze have subsequently come to have two houses, one newly built by the government and the other “downstairs” where they had been living. I was encouraged to use one of the vacant houses, and during Obon and other vacations, I was allowed to stay at the “downstairs house” of Mrs. Yamano Miyako. Aunt Miyako was a relative of Mr. Muramatsu, my cousin and the owner of the vessel named Hokai-maru, and I became especially close to the Muramatsu family.

Before visiting Onoze, from the stories and news I had heard, the Onoze-cho, Matsue City, felt like a distant world. And after having visited and lived there, I felt strongly attached to the town.

My cousin and his children would go out to the sea, except on stormy days, starting with wakame seaweed in April and continuing through October with anchovies (flying fish), sardines, and squid from the Oki Islands, as well as fishing in nearby waters and even to the border near Korea. After catching fish each morning, all the women and elderly would work as vendors or in fish processing.

The people of Onoze took a break from fishing during the winter months of November through March. Both men and women seemed to spend their time resting, taking care of their children, working in the fields, doing a little side business, and gathering at the family head’s house every night to eat and drink. They said they could get through the winter because they weren’t lavish in spending. Even though they said that they do not live extravagantly, they still enjoyed fish, turban shells, sea urchins, and other delicacies. They would say, “One second! ” And go down to the sea to fetch them, so from my point of view, there was no shortage of seafood.

I also got the impression that fishermen are dandy and fashionable when they are not fishing and are on land. Mr. Chikara Muramatsu, my cousin and the captain of the Hoyokai Maru, and his younger brother Isao, the chief fisherman, both had charisma and a sincere, unpretentious personality, perhaps because of their sense of responsibility for the boat and the lives and livelihoods of the people on it. Everyone respected them for their kindness and thoughtfulness.

At the time, women were allowed to board the small boats for transport but were prohibited from boarding the fishing vessels. From the year 2000 however, as tourists, many people who enjoy fishing have requested to fish on the fishing vessels, and this was in Onoze as well. As a result, they have started to allow both men and women on board.

On the other hand, some young people in Onoze also sought year-round fishing jobs. When the fishing season in Onoze ended, they moved to fishing ports where fishing continued after fall along with fishermen who also came from outside the prefecture. Some of the fishing ports used were Hamada in Shimane Prefecture, Sakaiminato and Yonago in Tottori Prefecture, Shimonoseki in Yamaguchi Prefecture, and so on. Despite the division into several prefectures based on land, it seemed that in fishing, everything was connected and viewed as one.

The heyday of the fishing industry had passed, and from around year 2000, the fishing industry in Onoze also rapidly declined. The vessels that discontinued business formed a fleet and had a farewell ceremony circling the Onoze port. Subsequently, Onoze was integrated with Matsue city, and it became common to obtain various career paths, and to take on leadership positions.

Whenever had summer vacations ended and it was time for me to return to Tokyo the people of Onoze would say, “Are you leaving already? You should come back here.” Onoze, which felt so distanced, now comes to mind when I think of my hometown.  I found my hometown through the days I spent with the people there.

End.

Episode ４ A Terrifying Experience

In 1980, when I did not have time to go abroad for sightseeing and did not travel overseas on business, I had an excuse to visit the former Iguazu Japanese-Paraguayan immigration area located in South America by myself. It was six hours by bus from Asuncion, Paraguay. My mother’s family was from Hikari City, Yamaguchi Prefecture, and there were several families from Hikari City and neighboring municipalities who immigrated to Peru, Hawaii, and other places. My grandmother told me, when I was only six or seven years old, about the experiences she heard from people who had returned from Hawaii. It was less than 10 years after the end of the war in Japan, so these stories may have been told by those who gave up immigrating when the war started and returned to Japan. It was not a story of hardship or suffering, but rather a story about food and clothing, and the strange custom of eating chickens after returning to Japan. The reason why my grandmother spoke so timidly must have been because the story was a bit frightening to the people of Setouchi, who ate only vegetables and fish in those days.

The clothes, too, were different from those of country people: “Even clothes are colorful and of superior quality, which are not available in Japan.” The stories of people emigrating abroad from Yamaguchi Prefecture seemed to have influenced my mother, and although she never had the chance to visit, she continued to have an interest in Peru. My mother, who spent long hours reading at bedtime every night, often read books about the Inca Empire. And some of those books, along with Manyoshu; Japan’s oldest collection of waka poems, and Chinese classics were my mother’s favorite reading throughout her life. I was curious of visiting this place that had been a Japanese settlement area in South America, and when the opportunity arose, I could not pass up.

Today, it is said that it takes about 2 days to reach the destination, but at the time, the shortest route was via Dallas, USA and Rio de Janeiro, Brazil. With all the transfers, it took three times longer. Work was busy in April as well, but I decided to make the round trip with seven weekdays off and a holiday. There was a passenger quota on a cargo ship for me to take, but I gave up on this option because of time constraints and decided to take the air route, which cost 300,000 yen round trip. This was my fifth trip abroad, and the first time alone. Without a doubt, if there are no issues with connecting flights, traveling abroad is not a difficult matter, and the express bus from Asuncion to Iguazu, which took 6 hours, the last stop was my destination, with acquaintances waiting for me there.

When going through passport control and security checkpoints at overseas airports, and even at Narita and Haneda, I am more than a little nervous. At Dallas, my first stop, there was no passport or baggage check since it was part of a connecting flight, and I was transferred to another aircraft with only my boarding pass. At Rio de Janeiro International Airport, my second stop, there was a passport and baggage screening for transfer procedures. Afterwards transferred to another plane.

On the way to baggage claim after passport control, a woman in a uniform stopped me and asked me to follow her. I followed her, thinking that she must be in charge of something because I was in the airport, and was taken through a long, narrow corridor to a dimly lit, small, interrogation room with only a desk and a chair. She left saying, “Please wait here.” As I sat there alone, my mind was filled with negative information about Brazil. I recalled a passage I read from a travel guidebook that said Paraguay was a safe, idyllic agricultural country, but Brazil’s rapid industrialization had widened the gap between rich and poor and made the country unstable. I waited for what might have been 10 minutes, but it felt like a lifetime.

Instead of the woman earlier, a man showed up and asked me what I was going to Paraguay for, and I gave him a brief description of my purpose of visiting the Japanese settlement. I was worried that I would miss my next flight if I took too much time at this point. The man remained silent and gestured to the uniformed woman waiting outside, which apparently meant I was excused from the room. The woman’s “follow me” hand signal led me out of the room, and at the exit back down the hallway from which I had come, she said OK, to me. I really wanted to know why I am being stopped and specifically questioned to be OK’d. I wanted to know why, but I was afraid that if I lingered with that, I would miss my transfer, or be locked up somewhere again, so I took my baggage as fast as I could and headed for the boarding gate.

It was about 30 years later that the reason became clear to me. We first need to understand that the time I had visited Paraguay was the time when the Japanese government provided financial support of around 300,000 yen to those who wished to return to Brazil after their employment was terminated in Japan due to the collapse of Lehman Brothers. I met Carlos Tamaki some year later in Tokyo, a good friend of mine, who was one of the people who had temporarily returned to Brazil. In the course of chatting, we came to this topic that I had experienced in Brazil. When I told him that I couldn’t find out the reason after all these years, he said, “I thought about it myself, but I think that your travel history in your passport was a problem back then. He added by saying that the Brazilian government had been in transition since the 1970s, from the previous socialist liberal regime to a military one, and anyone who had traveled to former socialist countries would have had been strictly monitored.

In 1970, I participated in a group tour to the International Congress of Historical Studies held at Moscow University. Just before the end of the Vietnam War, I stayed in Laos, which was fighting as a comrade of North Vietnam, for the filming of a program for TBS TV. The rest were visits to the USA and Mexico. Consequently, two of the four countries in my travel history were considered unsafe for Brazil at the time.

It is becoming common sense for ordinary civilians in Japan to be careful about their passport history, especially when they are acting alone. Tragic incidents and even murders have occurred due to false accusations and misunderstandings based on the travel history of passports. I can now recall my frightening experience as a fortunate one, as the officer at the airport in Rio had a wealth of knowledge and sensitivity as a professional who was able to discern me as non-threatening just from a short interview.

end

Episode ５ Alcoholic Beverages

There were many times when I would head for the ticket gate of JR Tokyo Station just in time to catch the last train of the rapid transit system. I was late that day because I went to a beer garden in the building next door after working overtime with my colleagues, and I put the blame on my company at the time for having such office culture. On this particular evening, I was supposed to head toward Chiba on the Sobu Express train from Tokyo Station, but I jumped on a train headed in the opposite direction, toward Yokosuka and Zushi, that was waiting on the platform that I usually use. While I was dozing off, the train had already passed Shinagawa and by the time I got up the train was at Yokohama Station. I got off the train in a hurry, but by then the train to go back ended at Ochanomizu, a local station, so there was no point in taking another train and the station platform was deserted. Even if I took trains here and there with multiple transfers, I would not be able to get home safely, so I had no choice but to take a cab and pay an unexpected sum of money.

As one would expect in Yokohama, the cab stand was bustling with activity even late at night on a weekday, and after a 15-minute wait, I was able to get in. “It won’t take more than an hour to get to the Hanawa Interchange on the Keiyo Expressway or Wakamatsu-cho on the Tokyo Bay Expressway”, the driver said. And I replied, “Mr. Driver, you don’t have to go so fast, I’m not in any particular hurry to get home!” And I nonchalantly added a question, “Do you specialize in driving at night, driver?”.  After a long pause he said, “I try to drive as much as possible 24 hours a day.” Hearing this, I thought I should stop talking to him while he was driving, but then he added, “Actually, I can’t resist drinking alcohol when I’m not driving. Even if I try to sleep, I can’t do so without drinking first. Driving is the only time I can resist the temptation to drink.”

You can’t drink alcohol because you have to drive. You cannot drive because you want to drink alcohol. People, such as this driver, beyond this realm struggle with the temptation to drink alcohol. I recalled that when I was in my twenties, Dr. Nada Inada, a well-known author and psychiatrist, once wrote, “When alcohol dependence intensifies, drinking is like a Shinkansen = bullet train: it doesn’t stop from Tokyo to Nagoya. There are no stops at every station.”

“When do you sleep?”
“I sleep only when I have to. I didn’t sleep yesterday either, but once I get used to it, I can drive without sleep for a day or two.”

Does this mean that he only falls asleep when he can’t drive because he can’t overcome sleepiness? Can he control his body and mind with the professionalism of a driver? Even though I was in the pitiful situation of taking the long way home late at night, the driver’s story was a little scary but too serious that I forgot about my own safety and could only hope for his mind to be at peace.

My favorite story about drinking was when Manager Hiromitsu Ochiai, who led the Chunichi Dragons for eight years from 2004, was interviewed in a web magazine called Baseball Psychology in January 2012 titled, “Eight Years of Truth”. I was surprised at the turn of events related to the reason why he selected pitcher Kenjiro Kawasaki for the opening game of his first season as manager. Hiromitsu Ochiai said that he came up with the idea of selecting Kenjiro Kawasaki over drinks on New Year’s Day. Kenjiro Kawasaki had not pitched a single game in three years due to a shoulder injury, and during that time he was even selected in the fan voting for the All-Star Game. The interviewer requested for details, “It was an idea that I would not have thought of without drinking. There are several aces in the lineup, so if I hadn’t been drinking, I wouldn’t have bothered to think of or pull out the name of a pitcher who normally wouldn’t have entered my mind,” he repeated.

It was a “success story” that is still told to this day, where an ingenious idea was realized because of drinking. It was a reassuring relief to know that alcohol does not always portray negative influence. Creativity and culture can reign supreme in any world along with alcohol.

After reaching its peak in the 1980s and 90s, the habit of going out for drinks with people at work began to decline thereafter, and now more and more of the younger generation around me rarely drink. Unless they are forced to, they will no longer drink for socializing at work. Gone are the days of socializing with alcohol that seemed to be part of our jobs, and I am glad to see this change. I have also become increasingly distant from alcohol, planning to only enjoy in a moderated way for the rest of my life. It is a pity that the treasures that surround drinking are gradually being lost, but in a world that is becoming increasingly health conscious, I am happy to see the signs of the coming of an era of people who can drink moderately or not at all on their own terms, and that is a development that I very much welcome.

end

Episode 6  　 What Impressed Me

I had always wanted to start an amateur study of Hokkaido dogs after I entered the workforce. Since my family had lived in Hokkaido for three years when I was Junior high, I actually exhibited my family dogs at exhibitions and talked forever with my dog friends. There are wonderful records and accomplishments of our predecessors who have published photographs and descriptions of Hokkaido dogs by pedigree and lineage along the chronological lines. I don’t know if I once read or if it was my original idea that in general, excellent research on canines does not come out of universities and laboratories. People who love dogs would surely rather live and play with dogs than to study them. It is said that dogs are the mirror of their owners, and as such, I think this is a grand subject that is equivalent to the study of people. The people I know who are obsessed with dogs are called “dog enthusiasts” and spend a lot of time and money on dogs. Although their efforts and achievements are not immediately recognized, they must have at least been filled with a sense of fulfillment and rich memories. Ironically to their families and others around them, they may have been perceived as terrible people as they would only focus on their research.

In the 1990s, university laboratories in Japan obtained budget for research and studies on Japanese dogs, and specialists in genetic information (DNA) joined them to analyze and clarify their roots and similar breeds. In contrast to these cutting-edge cases, research and studies on the Hokkaido dog were clearly lagging behind and stagnating even at the present time. Although I would like to see modern time technology be used that will allow us to catch up from this delay, it seems that the financial situation of the Japanese dog preservation societies is such that they do not have the funds to conduct research and surveys on their own.

In 1993, I took a summer vacation to participate in the AJIKC (alias: All Japan International Kennel Club) Dog Show as a member of the secretariat staff. The show was held in Copenhagen, Denmark. At the time, the AJIKC was one of the largest domestic dog organizations in Japan and was classified as a livestock dog producer organization under the jurisdiction of the Small Animal Section of the Ministry of Agriculture, Forestry, and Fisheries. Incidentally six breeds of Japanese dogs, Akita, Kai, Kishu, Shiba, Shikoku, and Hokkaido dogs, were national treasures and under the jurisdiction of the Agency for Cultural Affairs. The AJIKC is a member of the FCI (International Federation of Cattle Dogs, headquartered in Brussels, Belgium), which is an international federation of organizations that distribute certified breeds on the world market. In other words, it operated a worldwide market mechanism to certify pedigreed breeds and to bring pedigreed dogs into the market.

The AJIKC represents both Western and Japanese dogs in Japan and participates in meetings that require voting and the holding of dog shows at the FCI. As a result, the AJIKC is an organization that includes both dog breeders and dog lovers. It seems that the hardships of operating AJIKC were extraordinary. The president of AJIKC was fond of saying, “The quality of the club’s dogs has improved dramatically, but the quality of the people has not kept its pace.”

In Copenhagen, the judges included two Japanese judges from the AJIKC who were qualified as international judges. After the Shih Tzu division was over, a woman came to the judges’ table looking for the Japanese judge from AJIKC who had officiated the Shih Tzu division. It seems that dissatisfaction, disagreement, or consultation with the judges were common, and Judge T. stood from his seat, somewhat uneasy, but still looking familiar with the situation. Judge T. was an important figure of the AJIKC with extensive experience as a judge both nationally and internationally.

“There was little explanation of how my girl Aqua performed.” She said wanting to hear more. As for my job, I passed on her words to Judge T. The judge said, “You were the last one, Aqua. Her gait was very shaky, and she probably cannot walk normally. Is her leg injured?” The lady replied, ” Oh yes, my girl had a collision with a car two years ago,” but she smiled as if her girl’s life was saved, and then added, “Her hind legs are not back to normal. But I brought her to the dog show because I wanted some expert comments and advice on Aqua. I think her coat and face are very beautiful.”

For a moment, everyone around me and I became silent. More than anyone else, it was the very thing that judge T had always envisioned as the future of dog shows. In the 1980s and 1990s, AJIKC was at its peak in terms of the number of dogs entered in shows in Japan, and winning, losing, ranking, and being disqualified, were the main concerns of dog shows.

Sincere comments that would help dog owners raise their dogs tend not to be included. Puppies from winning dogs marked high prices, and their parents were sought after for breeding. I guessed that no one in Japan would allow a dog that walks with a limp to participate in a dog show. A lady with a Shih Tzu, whom I had encountered nearly 30 years ago, asked us, quite naturally, whether we could get affirmation and praise from experts for the characteristics of her dog, which she boasts about daily, and what she should pay more attention to. This question was subsequently deeply engraved in my mind.

end

Episode ７　  Asian Elephant ~ Sri Lanka

There was a call for applications for an ODA project in which the Japanese government would provide 10 million yen in funding and accept proposals for any viable and necessary projects. Regularly implemented since the 1990s, it now seems to have been integrated into the “Grassroots Project”. I contacted Dr. Takatsuki, an acquaintance of mine, with the good news that we would be able to participate in the first or the second ODA project in time.

Dr. Takatsuki, an ecologist and researcher on the coexistence of wild animals and human society, had just completed a field survey of wild elephants and human settlements in Kandy, Sri Lanka. The rapid decline of wild elephants in Asia and their coexistence with humans was and still is an important theme for the countries and regions concerned.

In 1994, I had taken a summer vacation to Kandy, Sri Lanka to help and volunteer at the FCI (International Federation of Cattle Dogs) dog show which was only for police shepherds. Although the time was a few years earlier than my visit, this was near where Dr. Takatsuki and his lab students had stayed. Despite being there for only eight days, I was shocked to learn that wild elephants appeared to have been living excessively close to human lives. In Sri Lanka, residents had made efforts to carefully keep herds of forest elephants away from their villages and to drive them away if they came close, but this had reached its limits.

The Sri Lankans, at least in the vicinity of Kandy, never kill elephants, but poaching was rampant, and the number of baby elephants left near their killed parents increased over the years and had to be protected in facilities.About 30 km from Kandy, was an elephant orphanage in Pinnawala, now a famous tourist attraction. In 1994, in the middle of the presidential election campaign, the safety was unstable, so the Kandy police, who exhibited their police dogs at the dog show, accompanied us to the orphanage.

“We are now planning to start a foster program for these baby elephants at the orphanage,” The chief of police explained to us. “As development progressed and forests with wild animals decreased, the number of baby elephants that could return to the forest was decreasing. In addition, elephants that had been injured and received medical treatment from people, became attached and are approaching the village without returning to the wild even after they are released. So, we held many meetings with the residents of Kandy to come up with measures to prevent further deterioration of the relationship with the elephants.”

“For those elephants that cannot be returned to the wild, we are considering having people from overseas send money to help them learn to perform tricks,” said the director of the elephant orphanage. Next, the director continued, “If 100,000 yen, which includes the caretaker’s salary, is sent to each baby elephant a month as a rearing fee, after 10 years the elephants will become full-fledged and able to earn an income through tricks.” He added, “When I say tricks, Sri Lanka has many festivals and events where elephants are mobilized, and they are on cue to walk and stop in the streets, and to carry people on and off.”

The police chief concluded with a smile, “The elephants have long life expectancy, so they can start earning money after 10 years and then return to you for the next 20 to 30 years. We are all working very hard to make this a success.” This was my best vacation story, and I never forgot about it until today as a dream that I hope to fulfill someday.

The preparation for the application for the ODA project was led by Dr. Takatsuki and two Sri Lankan scholars, who discussed the purpose, selection criteria, priority of themes, etc. with the people concerned, and came to the conclusion that we could make a proposal within the scope of either “conservation of Asian elephants” or “coexistence of humans and Asian elephants”. The next step was to find out if there were any such requests from our Asian counterparts. We were quite optimistic that there would be countries with needs, but as it turned out, even after a year, we could not find any country that would make such a request.

Everyone involved in the exchange of information and other discussions acknowledged the significance of the proposal yet were disheartened because we had no choice but to accept the fact that we could not find a recipient for the ODA. However, Dr. Takatsuki was satisfied. He said he was very pleased with the fact, “Everyone was so busy that all of you were interested in the knowledge and experience of conserving wild elephants without destroying the forest ecosystem, which is far from your daily life. And we spent countless hours together, having constant discussions on how to correct the development of the project while learning from failed cases. I was impressed that there is a workplace for people who are willing to take action to preserve the ecosystem of humans and even the earth.”

Some years later, I asked an aid director in a country where human-elephant coexistence was considered to be a future issue, why projects focusing on coexistence with Asian elephants and conservation of forests inhabited by wild animals were not progressing.
He replied, “I think it is because, from the aid recipients’ point of view, it is difficult to assess the impact of conservation of wildlife and forests in their natural state. Additionally, projects like such cannot get enough financial aid from developed countries.”
He also said, “Priority is inevitably given to aid that is straightforward, aid that is visible and urgently needed, where the lack of large machinery, medical equipment, and educational facilities means that their own people cannot even enjoy the basic benefits available in developed countries.” Forests and wildlife cannot raise the alarm of urgency. I felt helpless and dejected that people would not notice the importance of the issue until it is too late, and the situation reaches a point of no return.

The other dreamlike story about elephants sending money back after growing up in return for the financial support seems to have disappeared subsequently or was never talked about. The reason was easy to see from the fact that the elephant orphanage in Pinnawala had been “thriving” with tourists since 1994. The admission fee included an elephant ride, bathing time, and milk time, not to mention increased revenue, and it could be assumed that visitors would be willing to donate money for the cute, orphaned elephants in front of them if asked. Perhaps a donation system must have been put in place to include the cost of raising the baby elephants. If so, the wishes of the local people would have been fulfilled. I was filled with relief and happiness, imagining that the number of orphaned elephants had decreased through donations from home and abroad, and ultimately an effective system for managing the ecosystem had been established.

End.

ピンナワラの象の孤児院　スリランカ　1994
Elephant Orphanage in Pinnawala Sri Lanka 1994

孤児院に引き取られた子ゾウ
A baby elephant taken in by the orphanage

Episode 8　Experience Report:  Money

There was an era when Japan’s technological innovation led the world, and Japanese corporate brands and cutting-edge technology were the subject of admiration and longing. Especially in the 1990s, strictly speaking, during the decade from 1991 to 2000, Japan’s ODA was the largest in the world. The economy was top-notch, and foreign developing countries came to Japan to acquire knowledge in technology.

After six months of two assistant training coordinator assignments with JICA, the first training course I was assigned as a training coordinator on my own was “Computer Technology,” a three-month course held in Tokyo during the fall and winter of 1976. Twelve systems engineers from Asia, the Middle East, Africa, and South America participated in the program, one from each of the 12 countries, on a combined schedule of training and observation.

During the cold months of October through December, I spent three months at Fujitsu’s research laboratory in Kamata, Ota-ku, Tokyo. Although it was a heavy burden for me take on, Fujitsu lecturers were in charge of both lectures and practical training, and Mr. Nakahata (pseudonym), a staff member of an affiliated organization of the Ministry of Foreign Affairs, was in charge of planning of the entire schedule. Including myself, there were always four to five people involved at any given time, and we were to share the responsibility for three months.

On the first day of the training, Mr. Nakahata was supposed to hand-deliver living expenses to each participant during their stay. However, when Mr. Nakahata checked the amount and handed it to the last participant, Mr. Hassan from Khartoum, Sudan, I was caught off guard when Mr. Nakahata apologized and said, “I’m sorry, but I made a mistake of being 20,000 yen short. I will deliver the 20,000 yen directly to you myself at a later date. ” What did he mean by “I made a mistake of being short of 20,000 yen? I was puzzled, but a few days passed without any change.

In the Fujitsu lab, Mr. Hassan came in during a lunch break and asked, in an awkward voice, “Could you ask Mr. Nakahata what happened to the 20,000 yen?” He said in a voice that sounded like it was about to disappear. Surely, Mr.Nakahata had told Mr. Hassan that he would get it later, but not knowing that it still had not yet been received, I immediately went to Mr. Nakahata’s place to ask.
“Mr. Hassan already urged me to do the same. Does he think I won’t pay?” He added, “Japanese people don’t do such things, but Mr. Hassan is a worrier”, he replied as if taking things easy. And then, despite my repeated requests, which had no effect, and for which I was equally culpable, Mr. Nakahata visited Mr. Hassan’s lodging the day before his departure and refunded the 20,000 yen along with the completion of the program.

In the first year of my transfer, as I gazed at the colorful natural forest spreading out at the base of Moiwa, I certainly experienced a sense of sadness and wistfulness. Why am I in such a lonely place? I did not know why I felt this way in my beloved Hokkaido, where I have many friends. So, no matter how beautiful the autumn leaves were, I thought I would never like the lonely autumn.

Perhaps the reason why I like autumn even when I feel lonely is that through loneliness and sadness, there was an illusion of deepening inner self and self-absorption. The autumn and winter in Sapporo were wonderful.

End

Episode 10　  The Pleasures of Spring

March 2023

I like to spend time in the open air so much that I would rather live in my garden than inside my house. When I take a deep breath in the garden, the sleepiness disappears, and I feel revitalized. The time spent outdoors in spring is precious before the scorching heat of summer, and without the mosquitoes. It is only in spring, when the flowers and grass begin to sprout. The garden is connected to the late parents’ house, and I have it all to myself, so there is plenty of space.

I tried to grow some flowers and plants, and even vegetables, but gave up soon after. I had no reason or energy to try again after the disappointment I felt on the day of my first harvest, when I was faced with cabbage that was covered in insect bites and had a map pattern on it. My harvest was a proof that vegetables are best left to the professionals.

The red and white plum trees begin to bloom all at once, as if they promise to do so every year. Then come the red and white dogwoods, the red flowers of the silk tree, azaleas, peony, and a few herbs. These are mainly tree blossoms, and I feel inferior to them because none of them are plants that I took care of.

So, from spring to early summer, I remove the chameleon plant and non-native dandelions to make the surrounding environment a little more pleasant, and then I can enjoy the flowers and fragrance even if I leave them alone.
I like scillas, purple and red flowers which I do not know the names of, sage among the herbs, lilies, and burgundy sunflowers which go well with my lazy nature. I like sage because it attracts a lot of hoverflies. They are said to be in the fly family, but in appearance they are more vividly colored than honeybees and are lovely.

In the past, I had three dogs that I let loose in the yard, so the plants and flowers always played a supporting role. When there were dogs, no cats came to the garden, but now about three cats come every hour or so. For some reason, they don’t stay long, but seem to spend their time leisurely. They probably go back to their main home, but their behavior is a mystery to me. The cats don’t step on the flowers or plants, they don’t tear up the garden. They sleep and walk around slowly. Cat lovers say that to deepen your relationship with cats, it is important to be prepared to serve them. I definitely do not want to become one myself. I feed them food when I see their faces, and for cats with wounds, I consult with the veterinarian and keep a supply of anti-festering medicine on hand. I am concerned that the distance I try to keep between them is gradually narrowing. As the cats have started coming in and out of my garden, my attention has rapidly shifted from caring for the plants and flowers, which I was disinterested in to begin with anyways, to the cats, which is a new source of my worries.

I tried to keep a balance between cats and garden and as such, I got myself back on track and carefully removed the weeds around the lilies and Japanese ginger to help them grow. There are always weeds clinging around the lilies that are hard to distinguish. If you look carefully, you will see that the leaves are slightly thinner and have a slightly different shape. If you do not take good care of them, you may make the mistake of pulling out a lily by mistake. I remember the words of a teacher when I visited the Tokyo Metropolitan Horticultural High School for work who told me, “Flowers grow by the sound of your footsteps.” The more you care for the flower, the easier it is for the flower to grow.

This year, during Golden Week, I might plant red, yellow, white, pink, and orange lilies from bulbs and nurture them with love like a pet. It seems impossible to achieve, but I have a feeling that if I could somehow become more attached to them than cat, my life would be more peaceful in the future. I shall utter the self-incantation, “Lilies are more lovely than cats.”

Before I do that, I’ll cut a few more of the growing weeds, to make it easier for the cats to walk around the garden. With the arrival of spring, I decided to try a new challenge to moderately enjoy both elementary gardening and cats rather than being overly focused on one.

end

Episode 11 A Story of Flowers ～Daikon-jima

In the eastern part of Matsue City, Shimane Prefecture, there is a brackish lake called Nakaumi, which is a mixture of fresh water and sea water. Located in the center of the lake, Daikon-jima, which literally means Japanese white radish island, is Japan’s largest production of botan (peony), producing 80% of the nation’s peony seedlings.

There are several theories as to the origin of the island’s name, “Daikon”. Daikon Island where people from China and the Korean Peninsula first cultivated botan and ginseng, which gradually spread throughout the island. The island was named “Daikon no Shima” (Island of Radish) by the islanders to prevent the spread of the fact that botan and ginseng were cultivated on the island, in order to make a living from the expensive botan and ginseng, which were highly prized at the time. I still believe this somewhat joking origin to be true.

Until the 1970s, the botan peddling business was conducted throughout the country, but it was quickly replaced by the distribution/logistics system that was in line with the era.

About 50 years ago, my cousin in Matsue, Mr. Tadashi, sent us about 10 botan saplings. He must have delivered them to us because he thought my father would miss his hometown of Matsue. Twenty years have passed since my parents passed away, and those saplings have subsequently produced magnificent pink and red flowers every year. The botans have not been much cared for after they finished blooming, and I may have accidentally stepped on or hurt them with my dogs, but they are still alive and well. I want to thank and apologize to these botans every time they bloom.

I am moved, even after all of these years, to realize that the botans and I have shared memories about my parents, relatives in Matsue, and my dogs despite all they have been doing was to bloom and silently exist for 50 years as a matter of course. From time to time, without realizing I get the urge to take pictures of the botans and show them to someone, but Tadashi-san, whom I want to share the photos with the most, does not use a smart phone. I have thought about calling him or printing out the photos and sending them to him, but I have not been able to put my thoughts into motion. They say the life of a flower is fleeting, but is that really true? I wondered if this is really true as my botans have lived for 50 years. The flowers that are mentioned in Japanese waka poems as “flowers are short-lived” are mostly referring to cherry blossoms. It is not well known that the prefectural flower of Shimane Prefecture is the botan.

I stopped by Daikon-jima (literally, Japanese white radish island) for business in 2019. Although it was only a short visit, the place was bustling with various peony gardens and related facilities. There was also ginseng in Daikon-jima. What we normally call Korean/Chosun ginseng was sold with the name Unnan ginseng and Goryeo ginseng, according to its origin in China and the Korean peninsula, respectively. To attract tourists from all over the world, especially from China, which has close ties with peony, the industry cannot be sustained by the interests of Japanese alone. Therefore, it is important to name products that are familiar to the visitors.

Nevertheless, Botan is still the mainstream in Daikon-jima. Ardent welcome signs such as, “It is flamboyant and gorgeous!” and “Botans are coming after us!” are well-received by tourists.

On the other hand, I felt the will of the local government and citizens to preserve the original daily life, to continue the cultivation of botanical saplings in a natural way that fits in with the landscape of Daikon-jima. Similar to Nara prefecture, it would be wonderful if Daikon-jima were also called and considered “just a countryside,” despite its popularity and fame. Although this thinking may be criticized and ridiculed by tourism operators and investors as “just a countryside,” instead of turning Daikon-jima into a tourist spot, I hope visitors think that Daikon-jima is a place where people live with beautiful nature. Imagining the grand history of the inhabitants of Daikon-jima, I felt like going there soon to buy botan saplings and being welcomed by the island’s culture and industry.

end

Episode 12 My Favorite Sport: in and out of touch with table tennis

From about the time I was in the fourth grade of elementary school, my family of six had a ping-pong table and rackets, and we were all passionate about ping-pong (table tennis) for a while. This was when we lived in Zoshigaya, in Toshima ward, Tokyo. I had looked up why table tennis was booming in Japan during the decade around 1960. As it turns out, Japan’s table tennis team, led by a player named Ichiro Ogimura, won many gold, silver, and bronze medals at World Championships and Asian Games. I repeatedly heard the name of Ichiro Ogimura from my parents and aunt. It seems that table tennis was a very popular topic of conversation.

Thus, it was not that unusual to buy a ping-pong table, as the number of people who actually wanted to try ping-pong was increasing all over the country. I remember my mother taking the initiative to buy the ping-pong table, and it was an official one, i.e., not a toy, made by Nittaku. We had ping pong tournaments within the family. We played out in the yard and inside the house but due to limited space we usually played outside. When it was not in use, we stored it along the outer wall of the house where the roof overhung.

The reason we never got good at table tennis was that none of us had learned it properly, and there were no ping-pong classes or coaches to teach us, as there are today. My mother said that she had learned ping-pong before, and it was true that she had the form of a professional player. She sometimes hit a great shot, but besides that everyone in the family was very similar in terms of skill level. I think we continued for two years, but none of us improved as much as we would have liked. Nevertheless, I was left with the memory that ping-pong was fun and the belief that I could play ping-pong.

In middle school, high school, and after becoming an adult, I switched and tried different sports almost every three years, as if I was easily bored. I was passionate about soft tennis in junior high school, volleyball in high school, and skiing, skating, and golf after I started working. Swimming, horseback riding, and driving were also enjoyed for a few years, but ping pong was an irregular activity that I joined only when invited, just to match the head count.

If I had considered playing a sport that I can enjoy for the rest of my life, I would have started table tennis in middle school or high school as a club activity. Instead, I tried out many different sports based on the trends, impulses, and coolness that were floating around at the time. I’m not saying it was a total waste of time, but it wasn’t a hobby or sport that I trained for, so even if I spent a few years in it, in other words, it was just a passing acquaintance. When I moved to a new city or changed relationships, they disappeared.

Table tennis reminds me of a trip I made to Tajikistan in early 2000 to discuss the JDS scholarship with government officials in Tajikistan. In the garden of the hotel where I was staying, there was a magnificent ping-pong table, and hotel employees were playing during their lunch breaks. The marble exterior of the hotel, the garden filled with peonies, lilies, azaleas, and orchid-like flowers, and the rally on the ping-pong table in this spacious setting seemed as grand as if it were another sport. The table seemed to be placed for the guests staying at the hotel, but few people used it during the day. I was allowed to join in right away, and my opponent was either another hotel guest or an employee. Everyone played at least a meter away from the table, an evolved style of table tennis. I learned the hard way that my playing style, originating from home ping pong was outdated.

I imagined that China would go on to show off its power, but I actually saw and heard that table tennis continues to spread as an everyday sport in ASEAN and African countries. I realized then that the image of table tennis as something to be practiced in a corner of a gymnasium has long since been replaced.

Since 2010, I feel table tennis in Japan has become very popular with star players emerging one after another. I checked on social networking services and learned that table tennis classes and private lessons for seniors are thriving, despite the high lesson fee. It is not surprising that there are players who enjoy staying ahead of the trends as the technology and game style evolve with the times. In addition, large-ball table tennis, which has not seen the light of day for a long time, is finally becoming popular. More and more beginners and young people are enjoying large-ball table tennis for fun rather than for competition. The ball is about 4mm larger in diameter than that of regular table tennis, orange in color, and the ball is made lighter so that rallies can be sustained. The day must be coming soon when ping-pong and large-ball table tennis will be at the top of the list of lifelong sports.

I was one of those people to irresponsibly say that hobbies and sports will enrich one’s life and therefore one should try out as many activities as one would like rather than considering the futures in mind. However, I have only recently changed my stance.

Considering that it can be enjoyed for a lifetime, I would say to young people, first of all, “Try the sports you love.” Next, based on my experience I would like to add, “At the same time, don’t stop playing table tennis, even if only sparingly, because it will stay with you forever.”

End

Episode 13 Television has arrived in Japan’s living room!

Haru-chan and I were good friends from kindergarten to third grade of elementary school in Chiba City. We really wanted to stay as friends forever, but Haru-chan transferred to an elementary school in Tokyo in the latter half of the third grade. In kindergarten, there was a girl who made fun of Haru-chan for having a big lunch box, and other kids around laughed along with her. But for some reason, when I was around Haru-chan, those girls never said anything mean to her, which was probably one of the reasons why Haru-chan relied on me so much.

When I visited Haru-chan’s house, I was surprised to find it was a magnificent residence. The size of the garden alone was 400 tsubo (1,300 meter squared), but we had no idea how big that meant. There was a large gourd-shaped pond with several carp swimming in it, and a long, thin agar(寒天) like string of black grains in a bead-like pattern, were frog eggs. These would begin to swim as countless tadpoles after spring. The trees, including loquat and magnolia, looked like a forest. There were three pet white bantam(chicken) in the shed and yard, and a shepherd named George, who was born to a grocer nearby. Haru-chan said George was the smartest and strongest dog because his mother was shepherd, and his father was an Akita dog.

In those days when there was no TV, there must have been a radio, but I don’t recall ever listening to it, so I spent my time exclusively at Haru-chan’s house, like an explorer. Neither Haru-chan’s nor my house had a TV, but Haru-chan’s neighbor, Dr. & Mrs. Suzuki, invited us to their house to see their new TV set. It was around 1953 or 1954.

Since we lived close to each other, we would have dinner early in the evening and then watch TV together with Dr. Suzuki’s family. Haru’s younger brothers and children from other families were there too. The cakes and cocoa they served us were as enjoyable as what was on TV. The rooms were spacious and otherworldly, with a piano, sofa, and thick woven curtains.

To my chagrin, I have no recollection of what I watched on TV. I wonder what I was watching so intently. Dr. Jiro Suzuki was a well-known orthopedic surgeon at Chiba University Medical School Hospital. Mrs. Suzuki was the sister of Dr. Koumei Nakayama, who later became famous for his cancer treatment. Dr. Suzuki had a son Nobumasa and a daughter Masako who were a few years older than us, and both my parents and Haru-chan’s family had the impression that the Suzuki family was of a higher status than ours. This was not for his wealth, but because he was a pioneer of orthopedic surgery in Japan and a leader of cutting-edge medicine in Japan, and at the same time, a gentle and well-respected person.

Mrs. Suzuki was a beautiful person, and she was also natural, expressive, and lovely. Whenever we met her, we all felt cheerful and at home. When I was a university student, Dr. Suzuki suddenly fell ill on a platform of a JR station and passed away sitting on a chair. Haru’s parents also came from Tokyo for the wake.

I recall an episode where Dr. Suzuki was in his living room and said, “Welcome!”. As we gazed at the TV, he looked so happy and even got up to turn the channel for us. This was a time where there was no remote control for TV, and channel had to be changed manually. According to my father, Dr. and Mrs. Suzuki had been living in the U.S. for several years, so they were accustomed to using TV.

My father, who was a dermatologist at the same university hospital, was usually a man of few words, but he reminisced as he recounted episodes of Dr. Suzuki. He told me that a top-class orthopedic surgeon like Dr. Suzuki was so busy that he was on his feet all day long, performing one major operation after another and unfortunately had no time to take care of himself.

It is becoming a secret boast of mine that I experienced TV for the first time at the home of a well-respected family. The only person who can confirm this is Haru-chan, who transferred from high school in Tokyo to Nagoya in the middle of the year. I know she is still in Tokyo now, but we have only contacted each other through New Year’s cards. I feel it would be better not to meet people with whom I had spent pleasant and memorable days, unless it is inevitable. If it has only been a few years, I would have been open to a meeting up, but sadly more than half a century has passed and therefore I’m not so sure about a reunion. As such, I’ll just keep it to myself and say that it was a wonderful TV time that I can share with only Haru-chan.

End.

Episode 14   All-Girls School 　　　　

1.Dormitory life in Nishi-ikuta, Kanagawa Prefecture

Tomoko’s parents were unable to return to Tokyo for the April high school entrance ceremony, and they had to continue working in the local government for a while. Therefore, Tomoko enrolled in a high school attached to a women’s university that had a student dormitory; her parents were scheduled to return to Tokyo in three months, but this high school had a rule that once a student was enrolled in the dormitory, she had to stay there for at least a year. Even though we were in a rural area, we were living in a big city in the prefectural capital, and in the 1960s Nishi-ikuta of Kanagawa Prefecture still seemed like an undeveloped area in the mountains.

Indeed, surrounded by nature, clean air, and no noise, the school and parents may have been relieved that their daughters were in the best place to study and live. Commuting students would walk uphill for 15 to 20 minutes in the morning from Nishi-ikuta Station on the Odakyu Line to the school building on a paved path. It was a bit of a lonely environment, but more importantly, each day the girls would learn a little more about what it is like for a girl who had just graduated from junior high school to live away from parents and stay in dormitories. There were three dormitories; D-1, D-2, and D-3 and Tomoko’s room was in D-1. The room was for five students: two first-year students besides Tomoko, one second-year student, and one third-year student. In the dormitory, the rule was to call each other by putting “sama” after the name which sounded odd at first because it was overly polite, but she soon got used to it. Junko, the oldest, lived in Chiba City, while Miwako, the second-year student, lived in Kuramae, Taito ward, which is downtown Tokyo. Minako, who would become Tomoko’s classmate, was from Fukushima City, and Mariko was another one from Taito ward.

Although Miwako and Mariko had family living in Tokyo, transportation to Nishi-ikuta, Kanagawa prefecture was not as extensive back then as they are today. To get to Nishi-ikuta and where the high school and dormitories are located, even Tokyo residents had to go from their homes to Shinjuku Station, and then take the Odakyu Line from Shinjuku into the fields and forests where nature remained untouched. Depending on the area of Tokyo, it took an hour to get to Shinjuku, where the Odakyu line departs, and another hour from Shinjuku to Nishi-ikuta station, where the express and semi-express trains did not stop.

In this context, the first person to sit next to Tomoko when she entered high school was Miho Shimada. They both sat down and briefly introduced themselves. Miho said, “Really? You were also born in Shizuoka?” She continued with a big smile on her face. “My parents named me Miho after the Miho no Matsubara!” Tomoko introduced herself as “I was born in Nishi-Chiyoda, Shizuoka city while my father was transferred there for work.” Tomoko immediately became close with Miho, who was somewhat thoughtful and unpretentious that made Tomoko feel that Miho was not the same age as her.

Episode 15   The Joy of Reading -from my reading records-

While sorting through all the books in my house, I also looked through the books I wanted to read, so in the end, the progress was slow. Although I knew from experience that I cannot tidy up the books while trying to read them, but I have been taught to “cherish books,” so I have a respect for anything that takes the shape of a book.

First, I enter the prefabricated book storage located in the garden. In there are books that I have only bought but not read, and books that I read as a student and loved, which I do not read anymore but still keep by my side. I start with the books that I have already categorized to some extent and will look over again before deciding what to get rid of.  It is the most brain-intensive task for me these days.

I take out about 200 books from the bookshelf of books that I enjoyed reading in junior high school, during my high school days, and the 1990s. The bookshelf covering the entire wall from floor to ceiling that I ordered at my new home in Sapporo is so well made that when I returned to Tokyo, I brought the bookshelf back with me, along with the books.

1 Lev Tolstoy, Flaubert, Emile Zola, …

When I was in high school, I read the first of Lev Tolstoy’s works, “Childhood,” “Boyhood,” and “Youth”. I remembered that I admired a charming character named Nekhlyudov in these books, so I started reading them again. However, I couldn’t reconvene with that attractive character in those books. Yes, the name Nekhlyudov was definitely there, but could it be that I had imagined this pessimistic, frail-looking person was a quiet and thoughtful young man? I was impatient for something more, but there was none until the end of the book. I wonder whether this is the result of loss of empathy, or whether my teenage years and twenties were rich in sensibility but, in other words, didn’t understand things.

There are several other books I read in my youth and cherished. Most of them were written by 19th and 20th century writers, Flaubert, Emile Zola, Balzac and several other French poets and authors. I decided not to reread my beloved “Sentimental Education ” and “Gervaise” that were in front of me. Favorite readings of youth are best kept as fond memories. Some say that novels aren’t written by novelists, thinking that the readers will be teenagers or young adults. I used to somewhat agree with the statement, “They will taste different when you read those novels after you are grown up and mature in age,” but I no longer concur with this. Because younger generation are generally richer in sensitivity, the books read in those times resonate with the mind and body and soak into the brain and heart. For me, the most optimal time to read books was from elementary through adolescence.

2 Rainer Maria Rilke

Among the books I read in my youth, Rainer Maria Rilke has been a source of inspiration for me since I was a high school student, so I have returned about 50 books to the bookshelf where they were. For a long time, I had been planning to visit the birthplace of Rainer Maria Rilke, Prague, when I would retire from my job. I also intended to visit the places where he lived and where he was involved in his creative activities. I carefully planned to visit Paris, focusing on the Luxembourg Park, and spend time at the Rodin Museum and the Orsay museum to learn more about Rilke’s interest in Rodin. Since the day of my retirement did not come easily, I did not wait for my retirement, but walked these places alone in 2018 and 19, in two separate occasions, as I could take only three days each time. Since both were tight trips, if there is a next time, I would like to follow in the footsteps of the novelist Jacobsen, whom Rilke wrote that he was first influenced by, in his native Denmark, and in the Netherlands, where there are paintings and sculptures by artists with whom Rilke had direct and indirect contact. And of course, Germany and Switzerland which represent his life and death.

3 Children’s books

There are also books from elementary school. Especially in elementary school, where books were first read, the mainstream in our time were fairy tales from abroad, European novels compiled for children, and biographies of great Western figures. After the war, the Japanese government, following the U.S. policy that Japan should learn Western democracy, gave priority to Western historical figures, fairy tales, and novels over the traditional Japanese and Chinese classics, a period after the end of the war in Japan, around me in Tokyo, this prioritization of literature lasted for about 15 years. Works of Dr. Schweitzer were read before Dr. Hideyo Noguchi as books for elementary school students, and among women we read Nightingale and Madame Curie, etc. Also, we saw more often books on Lincoln and George Washington rather than Japanese leaders of the Edo and Meiji periods, most of them scholars and philosophers, such as Yoshida Shoin and other Japanese educators and statesmen.

Chinese classics were also published in books that children could read. Chinese classics had historically penetrated Japan to a greater extent than Western books, and along with Chinese poetry, they have been read with great affection, especially by the Japanese intelligentsia. Therefore, books compiled for children such as “Water Margin,” “Journey to the West,” and “Dreams of the Red Chamber” were popular. In my family, too, we took the initiative in buying books for my younger brothers and me to read, even though we saved money on other things.

A series of European fairy tales, novels, Sherlock Holmes, and Arsene Lupin also arrived from a nearby bookstore, and I loved Lupin when I was in elementary school. My parents took the initiative in buying books for me and my younger brothers to read, even though we saved money on other things in our house. With Japan’s defeat in the war, the old constitution and laws were revised, and it seems that society as a whole was eager to study not only children, but also civil servants and private citizens alike, using the West as a reference.

For the sake of postwar reconstruction, Japan’s great figures and literary works should not be militaristic or have a negative influence on Japan’s next generation, which should keep pace with the democracy that the West was aiming for. Therefore, the Japanese Ministry of Education, which took over the policy of GHQ led by the United States, started by reexamining textbooks used in Japan to date, then literary works and biographies of Japanese people, from the perspective of Western democracy. As such, during this period, it was probably a natural step to give temporarily give priority to the compilation of widely translated Western books for elementary and junior high school students. The discussion on which works should be prioritized in textbooks can be found in the published minutes of the Ministry of Education’s Roundtable Meeting.

One of the participants, Dr. Donald Keene (Japanese Literature and Culture) from the U.S., commented that it was interesting to note that Japanese intellectuals preferred and recommended poetry and works written in Chinese over works written in Japan’s unique Yamato language.

In 1943, two years before the end of the war, college students who had been exempted from military service were suddenly called to go into battle. The number is said to be as high as 100,000 or more, but the government still has not been able to ascertain or disclose the number. The diaries and memoirs of these young men who went to war and died in the middle of their studies were not available to the Japanese public at the time, and there was no way for the people to know about them. However, “The Diary of Anne Frank” became very popular in Japan, and I was also very moved by it.

It is my recollection that it was around 1970 that memoirs and the true stories of the suffering of Japanese young men who went off to the war in the front lines or on suicide missions began to be published by their families and others. I was one of those who were greatly shocked when I read the books of Mr. Minoru Wada of the University of Tokyo and Mr. Tadao Hayashi of Kyoto University, who were among the first to share this with the public. Until then, the military and newspapers told that all the young men died willingly saying, “Long live the emperor!” but this was not the case. Even today, nearly 80 universities that sent their students to the war have published the memoirs and records of the students who died as documents and books and have vowed to never repeat such evil again.

4 Yoshikawa Eiji, Matsumoto Seicho , Murakami Ryu, ShimizuYoshinori , Yonezawa Honobu

When I became a university student and a working adult, it was Yoshikawa Eiji who drew me to Japanese literature. I immersed myself in his work “Miyamoto Musashi”, setting myself a 10-year training period like Musashi did in the book and trying to lead a stoic life. I also liked Kojiro in “Sasaki Kojiro” written by Murakami Genzo. Of course, my stoic lifestyle never lasted more than a month.

After I became a working adult in the 80’s, I read mystery novels, those I heard from others that were interesting. In one of the last books written by Seicho Matsumoto named, “The Elephant’s White Legs,” I was particularly moved by the way he described Vientiane, Laos, as it realistically captured what might actually happen there, and I thanked Mr. Kuno of JICA for recommending this book to me. Seicho Matsumoto was introduced to me by my aunt, who gave me “Point and Line” and “Vessel of Sand,” which she said she had read and found interesting. Some of Seicho’s works have been made into dramas and movies, which I feel I can enjoy forever.

I consider Ryu Murakami as my alter ego, largely because we lived in the same era and spent our youth listening to the same music of the time. I like books that are in line with an era, such as “Hello Life from Age 55” and “Youtuber.” Ryu Murakami’s works are my ongoing favorite, so they are not included in the list of books to rid of. Speaking of favorite books, I like novels by Seiichiro Nakahara aka. Hidetoshi Sotooka as a journalist, such as “Returning North,” “Kanon,” and “Still not in the Royalty” etc. All three books are greatly loved by me. I was impressed by the way Mr. Sotooka took an archaeological perspective on Hokkaido in “Still not in the Royalty”, which had been neglected by academic societies, research institutes, and the media. With this as a backdrop, he had his other self, Seiichiro Nakahara, a novelist, write the book. I am proud to say that Mr. Sotooka and I were alumni of the same junior high school in Sapporo, and that I was able to talk with him several times in between the work that the Asahi Newspaper was involved in sponsoring for our projects. While many people had various expectations for him, I, as a fan of his novels, wanted to read more of Seiichiro’s novels. Just as I was about to read more of his novels, he passed away suddenly in Sapporo on December 23, 2021.

I started reading Yoshinori Shimizu relatively recently. This time also, a friend of mine told me about “Yattokame Detectives” because she thought it was interesting, and this horror genre was just right for me. There are many kinds of scares, but this is a nonchalant but genuine type of horror that could happen in my daily life. The time I picked up this book was when I was no longer keeping pets, and as I read alone at night, I got scared and walked around checking the locks and doors several times. However, according to what I heard, the author himself did not intend to write a horror story in “Yattokame Detectives”. If he did, he probably meant to use it as a medium to depict the world of the senior citizens’ lives. After reading “Growing Down” and “The Hidden among the Hidden Hot Springs,” I am now steadily reading a collection of short stories. It is a world I had never known before.

At the same time, I like the travelogue in which a couple goes abroad together. When I read the section on India, although I have never been there, I have met many Indians when I was a student and from work, and thus, I became curious. This couple in the book, who appeared as if they had never left Japan, actually gave me a strong impression that they had a cosmopolitan sense and could live anywhere and be loved by people everywhere. I was very surprised at how different the content of Shimizu’s work was from the other works of his that I had been exposed to before. As was the case with the cat story, when Mrs. Shimizu appears in a work, I feel warm and calm, which is an enjoyable aspect of the couple’s version. I don’t know if I will be able to read them all in my lifetime, but I am grateful that I have something to look forward to every day.

Truth to be told, I neither understand nor am familiar with “joke material” or “parody,” so I may not be able to really enjoy Shimizu’s works. I am attracted to Yoshinori Shimizu because he is a tremendously knowledgeable person with wisdom. Novels are supposed to be fictions, but the foundation and details of them are well studied and precise. I have learned from Shimizu’s works that fiction is a creation written with a well-calculated groundwork, vertical axis, horizontal axis, and details, and therefore has originality that is not found in non-fiction works that transcribe facts. It appears to me that some people read Shimizu’s fiction even if the topic may not be of interest to them because of the effort and quality he puts in his work both in content and form in order to deliver his message. Additionally, at the end of his fictions, Shimizu likes to use the “Ochi” technique*, which makes them unique. (*There are various forms of ochi, including those that use word play and those that include unexpected twists and turns, and they are often used to surprise the audience and make them laugh.) This is the first time I have encountered such a peculiar novelist. I wonder why I have to go along with such a ridiculous story but for some reason cannot stop reading them.

For horror novels, I also read Hozumi Yonezawa. They may be called great novels by those who write and edit them, but for someone like me who is not a good reader of novels, I found them stiff and tiresome to assemble. For some reason, however, Yonezawa’s works have an invitation that makes us want to construct our own stories. Surely those who want to become novelists must overwhelmingly support this author. “The King and the Circus,” which is a story staged in Nepal, is my favorite work that made me realize what an amazing novelist he is.

Thus, the number of works by Ryu Murakami, Shimizu, and Yonezawa is increasing.

The harvest for the day, which can be sent to local antiquarian bookstores, is less than 20 books. I could find a reason to keep most of my books. Still, it’s good progress. Although I can buy as many books as I want, I nod my head in agreement with a friend from work who said, “I’ve never expected to miss a book spine that I’ve been familiar with for years when it disappears from my living room, whether I’ve read it or intended to.”

In the past, I often read for the purpose of learning more about nonfiction, characters I was drawn to, and serious issues at home and abroad. That hasn’t changed, but at the same time, I have come to enjoy short stories regardless of the author, whether they make me laugh unintentionally, frighten me not excessively, or make me sympathize with the author.

End.

Episode 16 A Story of Failure

This is Tomoko’s workplace, a high-rise building in Shinjuku, Tokyo. A Japanese overseas aid agency that implements Official Development Assistance (ODA). It had only been established a year and a half ago.

Japan’s Overseas Development Assistance (ODA) in the form of technical cooperation began in 1954 after the end of the war but was not generally known to the public. In August 1974, JICA was established, and immigration, technical cooperation, and the Japan Overseas Cooperation Volunteers (JOCV) were newly under the budget and planning of the Ministry of Foreign Affairs.

The foreign aid agency is in charge of assisting “developing countries” in the world with low Gross Domestic Product (GDP) indexes. 60 or so staff members were divided into four divisions in a spacious, partition less room, working to accept technical cooperation participants.

Tomoko Mihara started working in the 3rd training division in April 1975. She began working with Yuko Ikenaga and Kazue Yano, and within a month, they not only had a kindred spirit but also a sincere need to help one another.

Today, Tomoko was waiting for Yuko and Kazue to return from their outside work. After 3:00 p.m., she was anxious to see who would come in and open the door diagonally to the rear on the right.

The Training Coordinator (CDR) was assigned to the 3rd Training Division, a unique creation of the Japanese ODA’s pre-1974 decade of trial and error. The job was described as providing necessary interpretation and coordination during the training period for participants from abroad.

For CDRs who have finished their outside work, the 3rd Training Division is where to report on the day’s work and prepare for the next day and beyond, but in many cases, they do not have to go all the way back to Shinjuku but can instead report by phone and prepare for the next day’s work at the site. The reason why we cannot go directly home is that although we are registered as CDRs, Yuko, Kazue, and Tomoko, have just reached one year and two months this month in June and are not yet full-fledged CDRs. As such, we have been told by Division Chief T to come to the office if we can be back by 5:00 pm. For the three of them, it was a pleasure to drop by the office that day for “reflection” and “exchange of information” among our colleagues there.

The three of them all happened to be in their 20s, with Yuko and Kazue being the same age and Tomoko was four years older than them. In April, the number of registered CDRs, who were contracted to work primarily as interpreters and handle liaison & coordination at training sites when needed, gradually increased from 50 to almost 100 in a short time. Since they were generally young and in their 20s or 30s, they were regularly recommended by Chief T to take the full-time staff exam rather than the freelance contract in order to secure their livelihood. However, most of the CDRs, both men and women, did not want to become clerical workers.

When Kazue Yano returned from the Ministry of Agriculture and Forestry’s overseas training office, she looked much somber, and her usual vivaciousness was absent. She was a person who brightened up everyone around her with her friendly smile, so Tomoko couldn’t help but ask, “What’s wrong?”. When Yuko came back from her work, interpreting lectures at the Ministry of Labor and all three of them were together, Kazue began to talk.

Kazue was in charge of a three-month “agricultural extension” program planned and implemented by the Ministry of Agriculture and Forestry, working with CDR Sayama of the 3rd Training Division. 15 administrative officers from Southeast Asia, Southwest Asia, South America, and Africa specializing in agricultural extension were being trained, and Kazue was accompanying them, providing interpretation and coordinating their work. Starting tomorrow, Kazue had to work on her own and said that she had lost confidence in her job. During the remaining training period of one and a half months, there would be three more regional inspections and on-the-job training. Today, Kazue was told by Mr. E, a participant from the Philippines, that the way she treated him had hurt him badly. Kazue said that she had always thought Mr. E was a very capable person, and her thoughts were going around in circles, trying to figure out what she should have done.

“It’s half an hour until the end of the day,” Kazue said, glancing at the clock on the wall as she continued her recounting. “Today, after the Monday morning lecture, during a break, I noticed several participants from Pakistan, Afghanistan, Bangladesh, Malaysia, and other countries were giggling at the back of Mr. E. Fashionable Mr. E. was wearing a glue-ironed, moss-green shirt. but had an A4-sized piece of paper with the word ‘dangerous’ written on the back with cello tape”.

Kazue thought she had two ways to react. One is to get rid of it, since it says ‘dangerous’, and Mr. E was not aware of it. The other is to keep out of it as it could have been an extension of an inside joke from the weekend since the participants usually spent time together on weekends.

Speaking of what actually happened, Mr. E. noticed the sign on his back later that day and said to Kazue, “You are the training coordinator. When I am being insulted, you should be telling me about it, not laughing alongside others.” He came to Kazue and complained in serious tone. Kazue was trying to become a full-fledged CDR, but she wondered if this meant she would be expected to work to an extent where she had to care for every little detail.

After listening to Kazue’s episode, Tomoko also thought it was okay to leave it because it was a joke among fellow participants who clearly had a good relationship with each other. Yuko said quite frankly, “Since Kazue was looking at the scene with the trainees when the paper was put up, even if she intended not to get involved, to Mr. E it might have looked as if the CDR was laughing along with them.” The talk went in circles. It was hard to come to a conclusion on what would have been the correct way to react. The three moved to a nearby coffee shop to continue sharing the pros and cons of the situation. The result of our discussion was this: the response Mr. E expected from Kazue was clearly not within the scope of CDR’s work.

The three tried to imagine what happened on the weekend that led to the incident. The participants most likely went out together as a weekend group, and Mr. E, being a non-Muslim, Filipino, could easily talk to the female clerks in stores starting with a friendly greeting “Konnichiwa!” It could have been that other participants were somewhat envious as this was a time when Muslim men would never be able to behave in such a way. They probably joked with each other that Mr. E was a “dangerous person,” and then pasted the piece of paper on his back on Monday. The three CDRs took the liberty of imagining that Mr. E was not angry that his fellow trainees put such a paper on his back, but that it was Kazue’s job to warn them and remove the paper, which is a fair point. [edited 17.05.2024].

Here, we rehashed again the scope of CDR’s work, whether it is CDR’s work or not. The hard part, obviously, is that Kazue is right, and CDRs can keep their distance from jokes and shenanigans among trainees. However, this was in the training site, in the lecture hall of CDR’s workplace. Unfortunately, no further progress was made on what should have been done, but I, and perhaps Yuko, were a little relieved that for Kazue, talking to us would have helped her feel a little lighter.

Two months later, we met again at the 3rd Training Division in Shinjuku for the first time in a long time. A month and a half after Kazue’s despondent day, the training program ended successfully, and all 15 participants returned to their respective countries with their training certificates in hand.

During the month and a half after the “incident,” Mr. E. said only the minimum necessary words to Kazue. On the day before he was to return home, Mr. E. came to Kazue and handed her an elegant beige cotton blouse, saying, “This is a souvenir I brought from the Philippines during my training to give to a person who has helped me a lot.

Yuko looked at Kazue mindfully, but said in her usual unpretentious tone. She said, “Yes, it may have been an incident of being insulted to Mr. E., but now that we look back a little more calmly, Mr. E. must have felt lonely, betrayed by someone he thought he liked, namely Kazue, didn’t he?”
I also said, “Indeed! We expanded the causes, such as whether it was the scope of our CDR work or not, or the norms of Muslim people, but I joined in, saying, “As Yuko said, no matter how many times we reflect on the incident, it is better to switch to say it was a wonderful memory than to regret an event we can no longer get back,” I said.

Thus we were able to turn “a failure that Kazue still regrets” into a positive conclusion: “someone she would like to see again”.

END.

Episode 17　 A Story that Made the principal Angry

Tomoko Mihara was in and out of the Public Relations Division of the General Affairs Department of JICA, a newly established overseas aid organization. From December 1974 to January the following year, she worked as a reporter producing a TV program for the Japan Overseas Cooperation Volunteers (JOCV). When Tomoko was about to leave after completing her preparations in Japan, recording overseas, and reporting to JOCV, Director M of the General Affairs Department said to her, ” Mihara-san, I heard that the Training Department is short of staff right now, and they are in a state of flux. Why don’t you go to Chief T and ask him what kind of work he is doing?

Indeed, Tomoko said that her job at the TV station ended today, but she had never said or thought that she wanted to work here. However, since it was an opportunity, I visited Chief T. A week later, I was told that I would have to take a simple test of question-and-answer in English and an interview in Japanese. She could see the urgency of the situation, where the workforce was not able to keep up with the work, and she saw no reason to refuse the process. The only saving grace for Tomoko was that she could work on a contract basis, meaning that once she started working here, she could continue or forgo work on a contract-by-contract basis. However, once she started work, she found out later that this was not possible in practice. At that time, Tomoko took a very simple test and interview, as told by Chief T, and decided to take the job anyway.

It was April 1975, and Tomoko’s relationship with JICA and the field of international exchange began.

Tomoko’s workplace was the Training Department’s Training Section 3, which was responsible for implementing the training themes requested by the counterpart country to help the trainees achieve their training objectives. In her third year, she was asked by Section Chief T and Assistant Section Chief H to work as a CDR and to do clerical work at the office when not working as a CDR.

The Training Section 3 was staffed by CDRs who had extensive experience studying and living abroad, about 70% of whom were women in their 20s to 40s, who were intelligent and dedicated to their work. Tomoko has spent her time being greatly fascinated and stimulated by these women, who have their own ideas and use them in their work within the organization.

One day, the director of the Training Department, which has about 60 people on staff, received an indignant phone call forwarded to him from an outside source. It was from the principal of an elementary school in Chiba Prefecture, which is always cooperative with visiting delegations from overseas, and said, “Our school has abundant experience in welcoming Muslim people, and we have spent time interacting with them without problems in the past. However, during today’s visit, the behavior of the CDR who accompanied us spoiled the pleasant time.

In the 1970s and early 1980s, those in Japan, mainly in the private sector, who had contact with Indonesia, Malaysia, and oil-producing countries in the Middle East, learned about and had extensive experience with Muslim customs and responses. Relations with the Islamic region deepened, and at the time of the Ministry of Foreign Affairs’ acceptance of 5,000 participants per year, the number of participants from the Muslim world visiting Japan accounted for two thirds of that total. In terms of numbers, if we limit ourselves to the fields of agriculture and vocational training, which were the mainstay of training at the time, half to 70% of each training group usually consisted of Muslim participants from Asia, Africa, and the Middle East.

If any problems regarding Muslims arose, what Tomoko saw and heard was usually the result of misunderstandings on the part of the Japanese. In Japan, the knowledge that Muslims “do not eat pork” was widespread, but it is not just about avoiding pork; there are Islamic rules regarding the range and method of slaughter of the animals and meats that are eaten, and any meat that has been used in other ways, as well as seasonings, soups, sweets, etc. derived from such meat, are not allowed. This is called “Halal.

Muslim participants seemed to consider it natural that unless they spent time in a Muslim country, they would not first understand Halal, even though they had heard the knowledge. Muslim participants in the 70s and 80s, who had learned that Japan was a Buddhist country without Muslim societies, could not expect to understand or deal with “Halal” in Japan, and many of them applied to be “vegetarians” during their stay abroad as a way to protect themselves. Even so, they would starve to death if they considered soups and seasonings, so they each had to make some degree of separation during their stay abroad. Those who could not do so would not have been able to come to Japan.

After hearing about the contents of the phone call from the department director, Section Chief T, who had already experienced several times the situation of understanding Muslims in Japan that sometimes arises, told Tomoko, who is also a CDR, to visit the K Elementary School, which has always been very understandable and supportive of international cooperation work. Section Chief T told Tomoko to visit the school after hearing from CDR Fukunaga, who was in charge of the trainig course and accompanying the group to the school visit. As of the mid-1970s, even the Training Section 3, which deals with Muslim participants on a daily basis, had limited knowledge and experience with Muslims, and was proud that it was taking sufficient care of them by requesting and confirming the daily meal menus for “those who cannot eat pork” as well as ensuring that the Muslim participants have  time for praying in daytime and early evenings.

When Ms. Fukunaga returned to the office, ” Thank you for your hard work!” Tomoko said, and although Ms. Fukunaga  must have been as annoyed as the principal was, but she regained her composure and began to talk. “Mihara san, at the school they all welcomed the  participants and  prepared meals for 12 members and even my meal. The teacher in charge explained to us the merits of Japanese school lunches for students and parents, and what points the school to be careful about.  Unfortunately, it was the day of the meal with soup that included pork, and since this arrangement could not be changed, they went so far as to remove all the pork with chopsticks from the soup for the 12 trainees and replaced it with more vegetables,” she said. Taking a deep breath, Fukunaga continued, “Eight of them were Muslim, but two or three could not even make the gesture of putting their hands on the meat, so I thought that would be bad for the school, so I just said, ‘Please do not be offended if they leave vegetables because they cannot eat them if you just remove the pork.

The participants fully accepted the school’s goodwill and consideration, as this kind of thing is a normal part of life in Japan when you come to Japan, and no Muslim participant complained about it when they left. On the contrary, it was an experience they would not normally have had. The children were lovely,” she said, “They enjoyed the school visit. I wish I had not said anything unnecessary about the school lunches. I mean, there are people who don’t eat pork and alcohol themselves, but also the seasonings and soups that come from them. It depends on their relationship with Islam, but that is the principle. It’s not that people don’t eat pork, it’s just that it’s “halal”.

Just because they are Muslim does not mean that they are coming to Japan looking for that in a non-Muslim country. Halal is not taken into consideration in daily life in Japan, whether it is seasonings or cookies, so it is good to know that the Japanese side is giving as much consideration as possible. So the time we spend together eating with the children is precious.”

Ms. Fukunaga had lived in France for a long time and was in contact with French Muslim societies. Tomoko was first introduced to the term “Halal” by her in the 1970s.

As Tomoko listened to Ms. Fukunaga’s explanation, she decided to go to K Elementary School with Ms. Fukunaga and have the principal talk to her directly. Ms. Fukunaga’s explanation was correct. Since correct explanations do not always persuade people, it is important to know that Japan is taking Islam into consideration to the best of its ability and that the Muslim people do know this.

Two days later, at K Elementary School, which Ms. Fukunaga and I visited, the female principal was waiting for us in a nice blouse with a small black dot pattern on a white background and a matching blue suit. In the first half of the meeting, the principal told us that it was unexpected that Ms. Fukunaga had pointed out the problem at the school lunch, which the school had handled with the utmost confidence. She said, “Our head of food service (food service cook) studied authentic cuisine to become a chef in France and has international knowledge, so I considered that there would be no problem with our school’s food service in terms of hospitality.” The principal had not lost her stance up to that point, but when she heard the latter half of Ms. Fukunaga’s explanation, she murmured, “So then, you are saying that the head of the school lunch department, knowing his limitations, has so far done as much as he could to accommodate the school.

Ms. Fukunaga had the intuition that this principal would listen to her and understand her, and she explained why she had not been able to round up the class moderately. The principal seemed to understand what had happened.

On the way home from K Elementary School, Ms. Fukunaga said that at schools and companies that continuously accept visiting delegations from abroad, women’s initiatives and support have become more prominent. In the field of international cooperation and exchange work in Japan, as far as she has seen, there are still some unaware male behaviors that would be accused of power harassment or sexual harassment in the West. She said that she used to feel hopeless when she saw women who could not speak out against such harassment, but she is glad to see that in just one or two years, capable women have emerged in a powerful way.

The days of an era in which women were only praised or valued and used because of their language skills or experience with different cultures were passing, when women were said to be good at international cooperation and exchange.

While the international exchange aspect may be present in any specialty or industry, she said, it is only a matter of time before women who have experienced the field are able to take the initiative in planning and not just do what they are told.

Fukunaga, who has more than 10 years of experience than Tomoko in interpreting and coordinating work in Japan and overseas, said that since the government established JICA and set up a system of international cooperation, she has sensed changes in various industrial sites throughout Japan, including agriculture, fishery, civil engineering, machinery, universities, and educational institutions. Tomoko also looked back on her own experience, saying that when you have contacts overseas, you can get a better idea of how to solve a problem than if you consider it only domestically.

On this day, Tomoko and Ms. Fukunaga not only gained the full understanding of the principal of K Elementary School, but also ended their school visit with the satisfaction of hearing from Ms. Fukunaga her in-depth knowledge of Islam and the reality of the hard efforts of female CDRs on the front lines of their work.

End.

Episode 18 　What Was Delicious – Sweets

For me, delicious food is something I am used to eating. However, I generally find all sweet things to be delicious, even if I am eating them for the first time.

Therefore, when I am in Japan or abroad and I am having a hard time eating something that I am not used to, I feel that if I have a cup of coffee or tea along with local fruits and sweets, I will be fine and can spend many days in the country. Even if it is my first time eating sweets, no matter how sweet they may taste, I feel at ease.

There is no fruit that I see on a daily basis that I do not like. In the order that I can think of, figs, watermelons, Saijo persimmons removing astringency, dragon fruit, and preferably melons from Hokkaido. I like all kinds of sweets. Japanese sweets, cheesecakes and pancakes, ice cream, etc. I prefer simple cakes and chocolates to delicate and complicated works of art. Sweet food, which I call dessert at tea time or after dinner, has become a regular daily meal.

As much as I like it, I have some difficulty with that way of eating. Sometimes I considered the need to be careful about both quality and quantity.

I have the knowledge that eating only sweets, no matter how much my body demands it, is harmful to my health, so there was a time when I learned the names of some artificial sweeteners and avoided them, and stuck to low-sugar cookies and cakes. I ordered them and recommended them to others, but I couldn’t keep myself going. Some low-sugar cakes were sweet enough and tasty enough, but they were inconvenient and time-consuming to obtain from far away places, and I do not know how much difference or benefit they offer , by only reading the figures listed.

I envy those who can make their own cakes. The video shows how to make it, and you can adjust the amount of sugar to your liking, use soy milk, add cinnamon and other ingredients, and decorate it with your family’s favorite fruits.　Making cakes myself is something I have yet to give up, as I am willing to go to great lengths for sweet treats.

What can I do by myself to improve the sweetness of both the mass and the taste? I am grateful to my cooking guru for showing me what I can do, Simple and perfect! I have a few simple puddings that I make and keep on hand, just mixing milk and gelatine. There are often days when there are no sweets or anything sweet in the house. The milk puddings are not very tasty as they are, but I sprinkle some raw cane sugar, before it is refined into white sugar, on them with a measuring spoon just for fun. The unparalleled simplicity of this pudding is surprisingly tasty to me. If I don’t mind, I can use yogurt or fruits as toppings, but if I have yogurt or fruits at home, I eat them directly, so I don’t have much use for this pudding.

Another way is to cut pumpkins, apples, pears, and other fruits into desired sizes and place them in the refrigerator in small portions, then boil them in a vegetable cooker for a few minutes in the microwave each time within a day or two. This is the way to get the sweetness out of Hokkaido or Nagano pumpkins, and to keep the fruit fresh. I don’t do anything more than that. To be precise, even if I wanted to, there is nothing I can do.

When I told my friend how I spend the above-mentioned time when there is nothing sweet in the house on a daily basis and when I run out of fruits and sweets, she said, “That is an ideal snack both nutritionally and diet-wise, and that is why you do not gain weight in spite of your sweet tooth. I think inwardly that the reason I don’t gain weight is because I prefer rice to flour bread, but I don’t eat rice to not gain weight. Unfortunately, with age comes the inability to gain weight, but I guess she meant it as a compliment.
Although I have encountered some good things, it is difficult to find the right balance in how I receive my favorite foods, just as it is difficult to find the right amount for those who struggle with alcohol. In order to overcome this problem in a natural way, until then, I will continue to cherish my tea time with my sweet-tooth friends without saying too many difficult things.

END.

Episode 19     A walkway with no end of concerns

Hasama Station, on the TOYO Rapid Railway, which runs directly from Yachiyo City and Funabashi area in Chiba Prefecture to Nihonbashi and Otemachi in Tokyo.

This station was to be the nearest station to my house, only a few minutes’ walk away. I was told that even after the construction of the station was decided, the railroad company and the land owners could not reach an agreement, and the station was eventually pushed farther and farther away from our residential areas and into the middle of nowhere. Despite the fact that the station opened 25 years ago, it still seems somewhat deserted.

For at least several years, we residents were not indifferent to the question, “Where will Hizanma Station be located? I later heard that even after the station construction plan was decided, there was strong opposition from several competing companies for more than 20 years, and furthermore, there was a continuous struggle with a huge number of landowners, which was called “the quiet Narita air port battle”. Not only around Hasama Station, but also along the TOYO Rapid Railways, new rental condominiums and residential areas are expanding around each station, rather than farmers’ fields, and the agricultural landscape is about to be wiped out. Although I don’t feel inconvenienced by the Hasama Station, the nearest station that is now so far away from my home, I am more concerned about the sight of thick woods and bamboo forests so dense that I cannot see the sky, and the lively chirping of wild birds that used to live there, which are disappearing.

I could not use it for commuting to work, but I was walking to the Hasama Station, which is a pleasant walking path. As I walked cautiously past a wooded area with poor visibility, I noticed a pair of magnificent-looking guardian dogs in the corner, which were not there the last time I passed by, and which should normally be placed in a shrine. When I looked up, I saw that a crane had entered the vast, elevated site and construction had begun. I was curious, so I walked past the site every day, but it was not a commuting time and there were few people passing by, nor could I see the figures of the construction workers on the hill from below. One day, several weeks after discovering the guardian dogs, a group of what appeared to be several construction workers were walking by, and I politely asked them what they were planning to do with the guardian dogs. They seemed to be people who were only contracted to do the construction work and did not know the overall plan, but one of them explained it to me. “The construction work we are undertaking now is being carried out by a landowner in this area who also handed over land to the FT School in front of us. There is a shrine that he built with local people on the hill where the construction is underway, and I think the guardian dogs are from that shrine,” he said. If you look at the two guardian dogs, you can see that the names of the donors are engraved on the bases of the dogs. One of them said happily, “My grandfather’s name is on there!” I was relieved to know that there were local people involved in the project. It was funny to think that I could suddenly say in such a high-handed manner, “The guardian dogs have been protecting the shrine for generations, so please continue to take good care of them,” but I did not know what else to do. I asked the person who seemed to know the most about the local area, so my worries were somewhat alleviated.

Every time I took a walk, the splendid figures of the pair of stately guardian dogs, facing forward and looking at each other, remained unchanged, and I was able to spend some time there with a somewhat peaceful mind.

However, about a month and a half after they were abandoned, a large notice board with the words “Illegal dumping prohibited” written in red letters was placed behind the guardian dogs. This was a warning that we had often seen in the past as people left oversize garbage and electrical goods in the wooded area and bamboo grove adjacent to this location. Did anyone seriously consider placing a pair of guardian dogs from a shrine here for disposal? Did they pick up the bulletin board from the thicket as a bad joke and bring it with them?

It is time to do something about it, but then I am not sure what I am supposed to do, I can only watch from the sidelines. The placement itself may be one of the arrangements, and I have no one to talk to. It appears to be normal for the landowner where the shrine used to be to be planning ahead.

My hesitation was blown away a week later when I passed by the guardian dogs. One of the guardian dogs, which had been placed facing the front, had been moved carelessly, one facing backward and the other at an angle. The entire forehead of one of the guardian dogs placed at an angle looked as if it had been scraped white. It was so painful to see such a tragic guardian dogs that I almost gave up, thinking that I could no longer pass this way.

Still, after considering it for a day or two, I called the Funabashi City Hall representative number near noon the next day. I thought that the department that was most likely to be interested would be the one that occasionally excavates Jomon pottery with volunteers in the neighborhood, so I called the department that digs for pottery in Hasama-cho.

I explained the situation to the staff member on the other end of the line, who answered shortly after being told, “I will connect you to the Board of Education. After speaking with both of these two officials, I concluded that they both fully understood and, to some extent, sympathized with what I was saying. After explaining, I added, “1. it’s not sensible to leave a guardian dogs of a shrine out in the open along a street where a high school is nearby and students can see them; 2. I am not a member of any particular religion; 3. if they cannot be moved somewhere due to cost issues, I will help donate to the cause.” Some of these three supplements may have been so unimportant that I felt like hearing  giggling from the person on the other end of the phone, but I finally found someone who would listen to me, and I couldn’t stop myself from saying it. The official told me that he had an outside job just this afternoon, so he would take a look while he was at it. I remembered that Funabashi City is involved in cultural asset protection for the Yurugi Jizo, which is located next to the construction site in question, and was able to easily tell them where it was. At that point, my concerns were mostly resolved.

In the evening, after I had forgotten about the walk and the guardian dogs, I received a phone call from the same official of the Board of Education,which I had not expected. He told me that he had to stop by the site to see the guardian dogs and to talk further about the situation. He also told that a new shrine was being built as part of the ongoing construction project, and that the guardian dogs would be installed in the shrine as they had been before. He further assured me that the scrape on the guardian dog’s forehead could be repaired. The staff’s voice sounded cheerful, and I felt as if I had finally found a kindred spirit.

I felt perfectly fine, but subsequently, three days later, I still had not visited the guardian dogs.

While my desire to know what kind of changes had occurred to those guardian dogs was growing, I was afraid to actually see them. Regardless of the plan, are the guardian dogs really safe at that roadside site?

May this turn of events continue, “It is no longer a dream to be reunited with the guardian dogs at the new shrine.

End

Episode 20   My Best Friend’s Recent Situation

Yuko and I had spent almost every day together through high school, college, and work, but after we left our workplaces around the same time, we hardly ever saw each other anymore, although our homes are not far from each other. We once talked about walking together slowly through the 88 temples and shrines of Shikoku. I sometimes wondered if I would be able to keep up with the stamina of Yuko, who enjoyed mountain climbing, but as long as she kept her usual plans in mind, we would be fine. Skiing, tea ceremony, and attending music concerts have all been guided by her presence.

My mother and aunt, who are no longer with us, continued to work with Yuko for many years. I can still hear my mother and aunt saying, “There is such a great young lady” in my ears.

When I think of her, whom I hardly see anymore, I can’t help but think of the unthinkable: “She really is a great person, and I never wanted to start my life over, but if I could, I would try again with Yuko-san as my role model.

That person, who is absolutely impossible for me, thinks carefully when she starts something, and once she starts, she prepares carefully and accomplishes it properly. I have never seen her stop in the middle of a project. She is always positive and sincere to others. I have never doubted myself or others that “your best friend is Yuko-san!” I didn’t realize until it was too late that my close friend, whom I had never doubted, was such an extraordinary and admirable person.

She left the workplace a few years earlier than I did and now lives with her parents, who are nearly 90 years old. She must be very busy in her daily life, but I heard that she finds time to turn her hobby of mountain climbing into hiking in the countryside, and also continues to listen to music regularly. I guess there is no room for me to spend time with her there. If I don’t contact her, it’s no wonder she leaves me alone.

I don’t believe that we will remain estranged, but like many of my friends, we may end up exchanging annual greeting cards once a year, as if we were checking on each other’s well being.

It is a silver tabby cat that comes to my place regularly in the morning and in the evening. On a snowy day a couple of days ago, when I opened the door in the morning, he came in with a grumbling “Hey, hey, you’re late!
This silver tabby is my closest companion at the moment. I can live with dogs and cats as my own companions, and even though I have been discouraged many times, I am sure I will be able to revive myself this time.

End